5-4. 考察
何れの作業においても「前傾しながらの運び」、「前屈」および「前傾」が多く見られた。作業安全の点から考えて前傾、前屈姿勢の場合、姿勢を保持することが難しく、特に荒天や、操業中急旋回するときなど転倒しやすく、またカーゴウインチにワイヤーを巻つける作業をする際には、作業姿勢が崩れると機器に衝突したり転倒する可能性もあるので気をつけなければならない。また、カーゴウインチを主に操作していた作業を含めて、網の上を移動するパターンが見られた。足元が不安定な網の上は船が大きく動揺した場合転倒する危険が大きく、極力網の上を歩くのを避けることと、その他の作業についても身体の保持を考えて手すりなどに掴まる必要がある。
選別作業の場合、前傾姿勢で運搬するなどの不自然な作業姿勢が多く見られ、腰痛の原因になるとも考えられる。かけまわし漁法125トン型の場合で上甲板の作業の場合は漁獲物が流れるコンベアーの位置が低すぎるのも問題と考えられる。可能ならばコンベアーの高さを改善するのも一つの方法であろう。かけまわし漁法80トン型の場合で特にタラの選別、運搬で前傾姿勢で運搬する際、腰を捻るなどの動作もみられた。船楼甲板で選別しているため、作業スペースの制約が大きいが、可能ならば作業台の設置などが望まれる。作業者についても、作業姿勢に気をつけると共に、腰痛予防の体操などを行うこと、定期的に健康診断を受けることも重要である。
あとがき
災害発生の第一原因として、最も多く現れるのは、ほとんどの場合、人間ならではの不安全行動である。
かかる性向を最小限にとどめる一つの方策として、無軌道に走りがちな人間の特性を、ある枠組みにはめ込むという定型化した作業方法を選択させることでコントロールし、より高い安全性を追求しようとするのが安全作業の標準化である。
"守られる作業標準"は、作業者全員が納得ずくでなければならず、見やすく、分かりやすく、使いやすく、そしてなによりも実行しやすく作られていなければならない。絵に描いた餅に終わらず、手垢や汗にまみれ黒光りして初めてその目的が達せられたといえよう。
作業標準とは、作業を行う際の「最適」な方法を示したものであるが、あらゆる事態を想定し、その対処方法をマニュアル化する事は容易ではない。しかし、失敗の積み重ねの上に成功例が現れるとすれば、「初めて作られる作業標準書」は、今や遅しと改正を待つはずであり、第一歩を踏み出すことに躊躇すべきではない。
この度は、沖合底びき網漁業を選び、その操業形態や作業工程を調査検討して作業の標準化策定の足がかりを示した。
実際の現場で使用される標準書は、細分化された手順の積み重ねであり、固有で持ち味豊かなものとなろう。
本報告書を踏み台として、実用的な標準書を多くの現場で作成されることを願ってやまない。
参考文献
1.沖合底びき網漁業に係わる掛け廻し漁法の合理化技術開発報告書
平成9年3月 社団法人 全国底引き網漁業連合会
2.沖合底引き網漁業の作業の標準化の作成について
昭和62年 稚内地区漁船安全対策検討委員会
3.寒冷漁場における労働科学的調査
昭和50年3月 水産庁