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政府助成

 1997年にオーストラリア政府は、国内造船業の現状のあらゆる側面を調査し、その将来に関する勧告を行うよう、造船業調査パネルに委嘱した。その調査の一環として同パネルは「政府助成」と造船における政府の役割についての勧告をまとめた。その勧告は政府の採用するところとなり、現在法制化の途上にある。
 オーストラリアの造船業に対する将来の政府の役割を議論するにあたっては、これまでこの産業がたどってきた成長過程に留意する必要がある。造船業界のこれまでの成長は、政府の特定の戦略や産業計画によるものではないが、その初期の発展において、支援となる政策的枠組みの設定により、政府がきわめて重要な役割を果たしたことは否めない。程度の差はあれ、下記の諸施策はオーストラリア造船業の成否を左右するものであった。

  • 輸出や国内市場向けの生産の奨励を目的とした改訂補助金制度、競争力強化を奨励するために段階的縮小が見込まれている

  • 融資保証を得るために、輸出金融保険公社の保証制度を利用できること

  • 研究開発についての減税措置

  • 輸出市場開発におけるEMDG(輸出市場開発補助金)計画およびAustrade(貿易促進庁)からの援助

 

施策の調整/計画は必要か

 成長に真剣に取り組んでいる企業岳が助成を受けられるような形で、政府は助成金受給資格基準を設定したが、著しく命令的な施策は採用しなかった。特に、下記のような意図はなかった。

  • 特定の企業、投資計画、ないしは製品を選んで手厚い補助を与えること

  • 造船業界が特に注力すべき市場を指定すること

  • 業界各社に研究開発の面で相互に協力するよう説得すること

 政府の役割が造船業の発展にとってきわめて重要であるにせよ、恐らく各社自体の企業家精神が成功のための決定的要因であろうというのが総合的な判断であったに違いない。各社間の競争は、それぞれの国際競争力の育成、維持にあたって大きなプラス要因となる。
 自主的な研究開発、投資、市場評価に頼って競争上の優位を確保しようとする、個性的な企業家が主流をなしている業界、また生産者間の競争が、それぞれの競争力を支える助けとなっているような業界を対象とする場合、政府主導の計画性を持ち込むことは、特に危険が大きい。政府の監視の下での企業間の協力は、たとえば一部の新技術の分野において表面的には魅力的なものに見えるかもしれないが、そのような癒着は国際競争力を維持する上で実際には有害となるであろう。すぐれた技術が企業の競争上の優位を支える主要因となっているような状況の下では、そういう弊害が生じる恐れが強い。
 オーストラリア政府が選んだ役割は、政策の大枠は設定するが、その枠内における個別企業の行動までは指示しないというものである。しかし、この一般的通則が適用されない一つの例外は、市場の破綻が認められた場合である。その場合には、当然のことながら、政府がさらに積極的に介入することもあり得る。たとえば、個別企業がコストに見合うほどの成果を研究開発から見込めないために、業界の研究開発投資が過小に抑えられるなどという場合が考えられる。そのような場合には、政府の補助金の少なくとも一部を研究開発に充てるよう政府が指示しても、正当化され得るであろう。しかし、それは必ずしも、企業間でこのような研究開発を協力して行うべきだという意味ではない。

 

 

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