水門の幅が21メートルであり、本船の幅が18.6メートルなので、片舷1メートルあまりしか余裕がない。外から水門に直航の際、船体が水門の岸壁に接触し双方に損傷を生ずることが多いので、いったん水門に入口の右側にある120メートルほどの岸壁に着岸する。とパイロットは言う。
できるだけ速力を落とし岸壁に接近、2隻の曳船によって風圧や潮流によって圧流されるのを極力防ぎながらの操船である。,右旋単車船は右まわりのプロぺラ一基の場合は、後進したとき船首が右方に偏向しやすいので、その力の作川の程度を考え対処しながらの接岸作業である。
ようやく水門入口岸壁に着けたあと、水門内の岸壁のビット(係船索止柱)に船首からヘッドライン(舷灯索)をとる。徐々にヘッドラインを捲きながら船尾に索を本船にとっているタグボートによって船を水門の中央線になるべく真っ直ぐになるように修止する。
パイロットは狭い水門に入る作業にかかると、矢継ぎ早に次から次へと指示が出る。スローアヘッド、ストップエンジン、スローアスタン、八一フアスタンなどと小刻みなエンジン使用の号令に3等航海Lはアンサーしながらテレグラフをひいている。また、ホール、ミヂッフ、スターボード、ハードスターボードなどと操舵号令が出る操舵手は正確を期するためアンサーしながら忙しく舵輪をまわしている。操舵室内の劣囲気もなんとなくはりつめた感じである。

曳船を離し船出および船尾から送った口ープは、船が少しづつ前進するに従ってラインマン(綱取人)が前方に移動してくれる船がドックの中央に入ってしばらくすると後方の、ゲイトは閉められ前〃のゲイトが開かれて海河の水面の高さに調節される。
船の係留している岸壁の両側にはアカシアの並木があり、新しいうす緑色の葉が風に吹かれている。近くにはこのドックの事務所があって、2階の外側には「新港船 」と書いてあるのが見えた。屋上には信号柱が立っており、上部がとがった三角形の形象が上がっていた。
すでに閉められた後方の水門の上には、さっそく多くの人々や自転車、車などが通行している。水門の開けられた前方には、斜めに開いた砲口に岸壁があり、さおの先に網のかごをつけてなにかをすくっているのが見える。
かなり前のことだが、1月の下旬にこの水門にきたときのことである海河に面した水門を開けたとき、海河は厚い氷が張っていて、氷を割ながら航行するのであまり速力が出ない。船が通航していくすぐ近くまで子供たちがきて滑っている姿があった。
今日はよく晴れて春潮ぬるむといった感じである。両岸には何隻かの船が着岸している。また、ホテルや住宅なども以前にくらべるとかなり臭くなっている。
ロックを通過して40分ほどいくつかの曲折を経ながら、進航して天津港塘沽岸壁第9バースに係留した。この30年来よく通航してきた新港水門も、両側の岸壁に接触してゴタゴタしたこともあった。今回は接触することもなく順調に,通過できたことになんとなく心の重荷を、下ろしたひとときであった。