ずいひつ

天津新港の水門通過
山本 繁夫
岡安 孝男画
ようやく狭い水門(シロップロック)の入口に達する前に、入口の少し斜めになった岸壁に仮着岸したあと、船首から係船索を陸上の係船柱(ムアリングビット)にとり、係船機で捲きながら徐々に船体を水門の中央の見通し線に進入させる作業にとりかかる。数年前、私の乗り組んだ貨物船C号が、横浜港で積んだ雑貨を上海港で揚げたあと、積荷をするため渤海湾の西側に面した天津新港の港外に到着したのは4月中旬であった。
4月19日午前8時30分抜錨してパイロットが乗船予定の新港人港航路の入口にある一番ブイに向った。VHF(超短波無線電話)の9チャンネルのパイロットステーションや11チャンネルの代理店に連絡したが、何の応答も無かった。予定の一番ブイ付近でエンジンをストップして待っていると、午前9時40分ころになってようやく代理店から連絡が来た。
塘沽の岸壁へ行くので、狭い水門を通るため、本日は風が強いので危険だから、転錨、入港は取り止めになったといってきた。錨地に引き返し大沽灯台の近くに錨泊した。

翌20日午前11時20分、港外錨地を出発した。新港の港内へ向う航路の入口の一番ブイ付近でパイロットが乗航して港内へ進航を開始した。いくつかのブイをたどりながら航行していると、何隻かの出港していく船と出合った。これから向かう塘活は海河の下流にある内港である。海河は華北最大の海にそそぐ川で天津市を貫いている。内港は海河水門以西の海河内にある。天新港は外港で海河河口の大沽畔沖積扇形砂州の北部にある。周囲は平坦で陸上には山や起伏がなく、港外には島や岩もない。渉外も少なく防波堤に囲まれた中国最大の人口港である。底の表層部は流動性のある泥で、付近の海水中の泥砂浚渫を続けており、浚渫船とよく出会う。
港口外の大沽口灯台から新港の南防波堤の東端まで約20キロメートルで、途中多くの一連のブイが設置されている。港内に入るとコンテナを積むバース(係岸場所)にはじまり、第5から第4、第3、第2、第1と各坤頭があり、それぞれ5〜8のバースがある。
塘沽へ行くには新港の坤頭についている船の沖を通過して、海河に向う水門を通ることになる。水門は海河と渤海の間で海潮を防いだり、潮高の差を調節する役割を持っている。水門の長さ180メートル、幅21メートルで喫水6メートル以下の船が通航できる。水門の見える第一埠頭の客船の着いているバースの沖にきて投錨仮泊した。水門の中にはすでに、隻人って通過作業中であり、現在は水門が閉められている。船から見える対岸には「大連海運集団」と舷側に書いた8,000トンほどの客船が行って係岸していた。1時間ほど待機したあと、水門が開いて貨物船が、隻出てきたので、本船は抜錨しスローで前進をはじめた。船尾左舷方向からくる風によって右方に圧流されるのを防ぐため、左舷船首付近と船尾付近に各一隻づつ曳船をつけて操船の補助にすることにした。