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GMDSSの普及活動と適正な使用

(社)日本海難防止協会
企画部長 菅野 瑞夫

 1月21日発生した漁船新年丸海難は、世界的な捜索救助体制の創設を目指したGMDSSの2月1日からの完全移行を目前にひかえての海難で、突発的海難対応として最も期待されたイパーブが「自動浮揚しなかった」という、私にとっても予想もしないことが起こり、長期にわたり同制度の周知普及活動に力を入れてきた担当者として非常に残念に思いました。
 しかし、自動浮揚の問題は、主として技術的な事項であろうと考えられ、私どもの周知普及活動は決して無駄ではなく、大いに有益であると確信しており、ここに4年間の事業の紹介をさせていただきたいと思います。

 周知・宣伝活動
わが国は海域条件の厳しい広大な海に囲まれ、また海難が多発している状況から、本協会では1999年2月の完全実施に向けて、海事関係者はもとより広く一般の方々に対しても海洋国日本における本システムの重要性のご理解と搭載の促進を図るための活動を推進してまいりました。
 本事業は、日本財団のご支援(補助質業)と海上保安庁等関係機関のご協力により、平成7年度から4年間の、長きにわたって推進されてきました。

○ ビデオの作成、配布
 初年度にGMDSSの内容を分かりやすく解説し、全国各地で開催する講習会などで使用するビデオのマスターテープを作成し、3年間で280本のテープを海上保安協会各支部をはじめ関係機関、関係団体、海事関係教育機関等に配布し活用していただきました。

○ パンフレット・リーフレットの作成、配布
 GMDSSの内容を分かりやすく図示し、説明を加えたものを作成し講習会で参加者に配布して活用した他、全国で開催される各種行事等の機会を通じ、また訪船指導等により広く配布に努めました。
 作成・配布部数は、4年間でパンフレットが,8万部、リーフレットが7万7千部でした(なお、ビデオ、パンフレットでは、誤発射防止の注意と誤発射した場合の速やかな海上保安庁への連絡を呼びかけています)。

○ 講習会の開催
 毎年度計画的に、海上保安庁等関係機関の専門家を講師とし、VTR、パンフレット等を活用しての講習会を全国的に開催しました。
 本講習会は4年間で76カ所で開催、延べ約6千人の方々の参加を得て、周知を図りました。

  誤発射防止

 漁船新生丸海難に関連して、船舶からの遭難信号の誤発射が多いことが大きな問題になっています。
 この誤発射に関して、私(海上保安庁OB)の体験を少しだけ述べさせていただきたいと思います。 巡視船に海難情報が入りますと不確実なものであっても、とにかく、ちゅうちょせず遭難現場に針路を向け全速力で急行します。ヘリコプター搭載型巡視船の場合は、走りながら直ちにヘリのスタンバイに掛かり、準備でき次第現場向け発進させます。
 その時には乗組員全員が、
「俺達が着くまで、必ず無事でいてくれ。助けるぞ!」
との気構えで、無事を祈りつつ、時化の中でも全速力で向かいます。
 その後「誤発射であった」旨の連絡があった場合は、「死亡・行方不明者がでなかったことが何より。」と全員がホットしつつ、パトロールに復帰するというのが、誤発射に対しての私達の偽らざる思いでした。今回の海難に関連しての発表では、誤発射が約9割もあるとのことですが、私の認識以上のことで、びっくりしました。
 このことから、次に前記講習会において必ず演題を設けて話をしている誤発射防止について書きますが、先ずは誤発射をしない、また確実に浮揚する機器についての研究・開発を関係当局、機器製造企業にお願いしたいと思います。

 

 

 

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