それでは、日本海固有水の水温、溶在酸素量のそれぞれについて長期変動をみてみましょう。
日本海固有水の存在する800〜2,000メートル深のポテンシャル水温(現場の水温から水圧による昇温効果を除去した水温)を1985年から1996年までの時系列でみます(図2)。この図から、日本海の深層では年とともに水温が少しずつ上昇していることが明りょうに表われています。最大の上昇は800〜1,200メートル深で、10年当たり0.01〜0.02℃です。この上昇量は統計的にも有意な昇温量と考えられます。一方、溶在酸素量の長期変動を水温と同様にみてみると(図3)、海中の溶在酸素量は深いところほど大きく減少する傾向にあることが分ります。
これらの水温、溶在酸素量の鉛直分布が長期変動によってどのように変化したかを示すと図4のようになります。このような変化はどのような意味をもつのでしょうか?
ここで日本海固有水の形成を考えてみますと、日本海固有水は冬季に日本海北部の海面の冷却による海水の沈降で形成されるので、逆に、そのような冷却された海水の沈降による補給がなくなったり減少したりすると、上方からの熱拡散の効果が大きくなって日本海固有水の水温は上昇し、有機物の分解に酸素が消費される効果が大きくなって溶在酸素量は減少することとなります。
従って、今回の解析結果から、日本海北部で生成される低温・富酸素の海水の沈降量が残り、深層への新たな水の補給が減少していると考えられます。
このことは、日本海北部における気温がここ数10年間において上昇し、日本海固有水が形成されにくくなっていることを示しています。すなわち、日本海周辺の気候変動の影響が日本海固有水の長期変動に表れていると考えられます。今後も継続的に日本海を深層まで観測し、気候変動と関連した海洋の長期変動を考えていきたいと思います。
図2 ポテンシャル水温時系列 図3 溶在酸素量時系列
図4 傾向直線から求めたポテンシャル水温(a)と溶在酸素量(b)の鉛直プロファイル