海の気象
日本海深層の長期変動
佐藤 亘男
舞鶴海洋気象台海洋課
主任技術専門官
近年、世界各地で頻発する干ばつ、洪水、異常低温・高温等の異常気象や地球温暖化が大きな社会問題になっています。世界の平均気温はここ百年間で0.6℃上昇しており、日本海でも海上の気温はこの35年で約0.5℃上昇しています。
一方、日本海の海の中ではどのような長期変動が生じているのでしょうか?舞鶴海洋気象台では越前岬沖の海洋観測定線(PM線という)を過去40年近く観測しており、このPM線の観測点P(図1)では、2,500メートル深付近の深層まで年2〜4回の海洋観測が行われています。このP点の深層の水温、溶在酸素量等のデータについて最近までの長期変動を調べたところ、近年の日本海付近の気温の上昇により、海洋深層までの対流が弱くなっていると考えられる現象が見つかりました。
長期変動について述べる前に日本海の特徴をみますと、日本海は海洋亜寒帯前線(ほぼ北緯40度付近に存在)により南北に分けることができます。この前線以北は寒流域と呼ばれ相対的に低温になっています。一方、前線以南は対馬海流から流入する対馬暖流が広く流れています。また、寒流域ではごく浅い表層から、対馬暖流域ではほぼ500メートル以深に、水温1℃以下の日本海固有水と呼ばれる深層水が存在し、日本海の海水全体の約70%を占めています。
日本海固有水は冬季に日本海北部海域の海面で冷却された低温で溶在酸素量の多い海水が深層に沈降し、日本海全体に広がることで形成されると考えられています。表層を流れる対馬暖流の水温などは季節変動しますが、深層に存在する日本海固有水はほとんど季節的に変動しません。
図1 PM線および観測点Pの配置図