ワークショップは管理部門と技術部門に分かれて実施され、管理部門は当協会シンガポール連絡事務所の会議室で、共同発刊に関す
る取り決めや今後の予定について討議された。
管理部門会議には3カ国の水路部長が参加し、遅いときは夜の10時過ぎまで討議が行われた。3カ国の間にはENCに関する技術較差の他、複雑な各国間の関係もあり、今回日本がその間に立ってENC発刊のための仲介役的役割を果たすこととなったのは、単に日本が経済的に余裕があり、ENC技術先進国であるだけでなく、過去に日本が行ってきた航路標識整備、水路測量を通して培われた信頼関係があって初めて成し得たことである、ということはいうまでもない。
この会議の結果、沿岸各国は自国の分担海域のデータ照合作業(ENCデータが正しいか確認する作業)を早急に進め、1999年中に発刊することを目標とすることで合意された。発刊までに約1年がかかるということは遅いように思われるが、照合作業はたいそう骨が折れる作業で、英国水路部でもこの作業を嫌い、簡便なラスター海図(詳細は1998年3月の本誌を参考されたい)にはしる現状をみれば、3カ国のENC発刊への歩みは世界的に先進的であり高く評価されるべきである。
一方技術部門は、各国のENC作成責任者である水路技術者が集まり、シンガポール港湾庁のENC発刊施設を研修会場とし、ENC作成のための技術供与が行なわれた。当初は各国から2人の技術者が集まる予定であったが、都合により1人しか参加できなかった。しかし、研修においては当初の目的を達し、今後データ照合作業を経て、ENCが発刊できるレベルにまで達することができた。
海難防止に関する技術革新は目まぐるしく変化しており、ENC、GPSと並行して自動船舶識別装置(AIS)というシステムについても現在IMOで討議されている。また、ECDISは元々海図データ以外のデータを表示できるよう性能基準が定められており、その他のデータとして、海潮流や潮汐、漁具の設置状況から漁船の出漁状況、はたまた油が流出した場合の防除シミュレーションについても、各国各機関・企業によって検討されている。
ECDISに限らず諸計器類が高度化してくると、航海者がその利用に習熟しなければ、それらの計器が搭載されていてもなんの意味もない。これから航海計器はますます高度化し高価格化すると予想されるが、実際に操船する航海者の能力、船主(海運界)の経済状況等を勘案し、無理のない、しかし遅滞ない進歩が求められている。
マ・シ海峡電子海図ワークショップは、1999年にはマレーシアのクアラルンプール、2000年にはインドネシアのジャカルタで開催され、発刊後に発生するかもしれない不具合な点や、航海者・船主等に対する啓発活動、また、ENCを最新の状態に維持するための方策等について討議される。その後は3カ国が独力でENCを管理していくこととなる。
今回のワークショッ.アに参加した一員として、このENCがマ・シ海峡の海難防止に役立ち、発刊に際して払われた日本財団・海上保安庁・当協会の貢献が、今後も末永く評価されることを祈ってやまない。
調印後の記念撮影