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 ゴムボートに8人が乗り込み、海岸近くに接近すると沖合からは波が全くないように見えた波打ちぎわは、思ったより大きい波があり、ボートアンカーを使って沖合からくる波が小さいときを見計らい、勢いよく砂浜に乗り上げたが海水の飛沫を頭からかぶり、折角の制服、制帽はずぶ濡れになった。
 靴を脱ぎ素足になってボートから砂浜に下りたわれわれは、恐らく60℃近くあると思われる砂地を踏んで思わず「熱い一!」。この島が活火山であることを知らしめられた。

 島の状況について、基地隊で聞いたこと、自分で見、かつ体験したことを綴ってみよう。
(1) 島内には所々に100℃以上の高温域があるので、決して素足で歩かないこと。
(2) 戦時中激戦場となった島の南の海岸は、今でも不発弾がある可能性が高いので注意を要する。
(3) 島には湧き水はない。生活用水は滑走路に降った雨水を溜めて使用する。
(4) 戦時中に掘った防空壕は入口から五?も入ると熱気がむんむんして5秒も我慢できない。かつての日本兵は、この蒸し風呂のような濠内で暑さと渇きに耐えながら戦ったのかと感慨無量。
(5) 島には大木がなく細い木ばかりである。戦前は堅木の大木の林があったという。
(6) 島の周辺ではよく魚が釣れるが、魚は内地のものとよく似たものでも毒があって下痢するので食べないほうがよい。―基地隊員の忠告
(7) 島には何箇所か蒸気が吹き出している所がある。
(8) 滑走路にはかなたまで続く段差、10??ほどの割れ目があった。これは硫黄島が生きた火山島であることを物語っているように思えた。
 さて、前項の?が今回の話の主題となるのだが、その時はそれほど身近には感じなかった。
 われわれは、硫黄島を離れるとき、慰霊塔へ案内され、持ってきたボトルの水を捧げ「ささやかですが、この水を飲んで安らかにお眠り下さい」と暑さと渇きに耐えながら戦死した多くの兵士のみなさんに手を合わせた。




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