あとがき
バルチモアまでタクシーで約15分、ワシントン市内までタクシーと列車、地下鉄で約1時間半、ニューヨークまで列車で4時間のところにいるのだが、宿舎が大変心地よくて夜間は外出する気持ちにはなれなかった。
自室から徒歩1分のバーに行って、船乗り仲間の1人として世間話をしながらキリンビールを飲むことが楽しかった。ほとんどがアメリカ人だったが、アルコールが入ると皆が日本をよく知っており話に花が咲いた。さすが船乗り、中には日本人の小生も知らない日本の船乗り穴場情報も聞いた。
パナマ運河パイロットがレーダー講習を受けていたり、グレート・キャプテンがパソコンコースを受講中で、Windowsの話を夢中になって話していたり、3等航海士が機関室シミュレーターを受講中で機関室の面白さを語っていたりした。
日本の船乗りと比較して、アメリカ人の彼らは船乗りとしてのプライドや仲間意識を強く持っているように感じた。
10月初旬にあるインデアンサマーも小生の滞在途中で去り、来たときにあった樹木の黄色の葉も赤くなってすっかり落ちばじめ、冬に近い秋がやってきたようだ。ここでは多くの友人ができ、Capt.ピルスバリーとマイクさんに親切にしていただき、大変お世話になった。
世界のいろいろな船員教育、商船教育をじっくり見て回った。教育/訓練に関しての筆者の意見を一口でいうと、?教える内容(今日的で、教師の経験/研究/調査の背景があって教師が自信をもって教えられるものではなくてはならず、教科書の内容そのままを理解させるということでは学生はついてこないだろう)?道具(シミュレーター等有効な教育機器を使用することが最も効果的である)?教師と学生の資質(双方ともにやる気がなくてはならない)の3つが基本的に大切であることを再認識した次第である。
バルチモアからサンフランシスコ経由で成田に向かう途中、アリューシャン沖で航行中の日本船らしいコンテナ船を窓に顔をつけてじっと見続けた。
―完―

陽気なアメリカ人
おもかじ、とりかじ
和船の操舵命令は、船首を右へ向けるときは「おもかじ」左へ向けるときは「とりかじ」であるが、その根拠は船針盤にあるという。船針盤は子(北)の目盛りが船首になるように置いて使用するので、右舵正横が酉(西)左舵正横が卯(東)の目盛りとなる。従って、舵柄を左へ動かすことを「卯面舵(うむかじ)」右へ動かすことを(酉ノ舵(とりのかじ)」と称した。卯面舵が転化して面舵「おもかじ」となり、酉ノ舵が酉舵「とりかじ」になった。
操舵に舵輪を使う現在、その回転方向は舵柄の動きと逆であるが、日本語の操舵号令としては今でも使われる。
普通は聞き間違えないように「おーもかーじ」「とりーかーじ」という風に長く引くアクセントの位置で区分されている。
(杉浦昭典著「海の昔ばなし」から抜粋)