事故直後の試行
事故直後に数箇所で業者の製剤の効果を試すという形でバイオ処理が現場で行われた。ほとんどが業者の自己負担で実施するのを了承もしくは黙認したもので、町の費用負担で実施したのは京都府網野町だけである。
住民などからのクレームはなかったが、手順もしっかりしたものでなく、効果も波で洗い流されたりしてはっきりしなかった。
福井県三国町では漁協が強く反対した。逆に兵庫県香住町では漁協が実施を、要求して地元業者の持ち込んだオッぺンハイマーの処理剤を使った公開実験を行った。第三者機関に評価を依頼したが、それによると一応の効果はあったとしている。
始まった基礎研究
今回の事故を契機に始まったバイオレメディエーションの基礎研究は大別して、現場海域で処理剤の効果や微生物の浄化能力を調べる臨海型と、現場海水を採取して微生物を培養し、その分解能力を調べる実験室型に分けられる。
臨海型の代表例は近畿大学の藤田教授が網野町の夕陽が浦の砂浜で始めた重油の分解速度測定実験である。実験サイトをバイオ区(沖縄の海水から抽出した分解菌を混入)、栄養塩区、コントロール区に分け残存油量の経時的な変化を調べている。
結果は、バイオ区>栄養塩区>コントロール区 の順で分解が速かった。福井大学の広石教授らは同大の臨海研究施設で仏製Eポールと日本製B2の栄養剤添加と無添加の効果の比較研究を行っている。国立環境研究所も香住町の岩場で研究を始めたが台風で現場が流され中断したようである。
通商産業省、工業技術院の中では生命工学工業技術研究所の東原主任研究官が、三国町沿岸で季節ごとに採取した海水中の全菌数や、石油分解菌数を調べている。汚染直後は分解菌が多いが、2ヶ月で著しく減少するという。金沢大の板垣教授らは石川県沿岸で採取し油塊から重油分解菌を抽出培養し、その活動実態や分解能力を調べている。ある短桿菌株は油滴を24時間以内に完全に消滅させたという。
これらの基礎研究も手法などまだまだ改善の余地があるが、バイオレメディエーション技術の可能性が徐々に明らかになってきた。
コンセンサス形成の研究
未来工学研究所の「生物学的環境修復手法の社会的コンセンサス形成の調査研究」では、先年度にバイオレメディエーションの日本および海外の実態、住民や地域リーダー等の受け止め方を調査している。
その結果、国民性や自然観、災害観さらには漁業、観光面での海との結びつきの強さなどが絡んで多様な受け止め方がされていることから、未成熟の技術に対し社会的コンセンサスを形成していくための課題として
(1) 普及啓発活動
(2) 基礎研究の充実
(3) 評価システムの確立
(4) ガイドラインの検討
(5) 国際的気運の醸成
(6) データベース化の推進
を挙げ、それぞれの具体的項目を指摘している。
今年度はこれらの課題のうち、(1)、(4)、(5)を取り上げ、一般住民と防災担当者など地域の関係者向けのパンフレットを作成中であり、月には国際シンホジウムを開催する予定である。
今後はようやく動きだしたわが国の油汚染バイオレメディエーション技術の健全な発展のために、情報の整理と提供機能をいかに整備していくかを積極的に検討していく計画である。