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ナ号事故を契機としたバイオレメディエーション技術への新たな取り組み

財団法人 未来工学研究所
所長代理 長谷川洋作


著者

はじめに

 ナホトカ号の事故を契機として、バイオレメディエーション(生物学的環境修復)技術が日の目をみようとしている。日本海側沿岸各地に漂着した重油の汚染除去が困難を極めたために、物理的処理や化学的処理に加えて第3の方法として生物学的処理が注目され始めたのである。事故直後には米国のバイオ処理業者の売り込みもあったようだが、微生物を扱うことに対する一般住民の不安感や適用後の富栄養化などに対する懸念から、本格的に適用されるまでには、至らず、実際にはいくつかの小規模な試行段階で終っていた。
 しかし、この事故を契機に環境庁はバイオレメディエーション技術の効果、環境影響等について検討を開始し、今後の適用にあたっての留意点をとりまとめている。
 また、日本学術振興会では未来開拓学術推進事業として「沿岸油濁の生態系に与える負荷の評価とその軽減」を開始するなど、大学を中心にバイオレメディェーション技術の成熟化を目指した研究が始まっている。
 さらに、私どもの未来工学研究所ではバイオレメディエーション技術の健全な進展のためには、現場海域を使った研究の段階から、、般住民や地域の漁業関係者、観光業者、防災関係者などの理解と同意が重要であるとして日本財団の補助を受け、1997年から社会的なコンセンサス形成のための研究に取り組んでいる。本稿はこうした新たな取り組みを紹介するものである。

バイオレメディエーション

 重油流出などによる海洋汚染の除去対策に、微生物を使って分解を促進させるというバイオレメディエーションのアイデアは古くからあったが、わが国では、実用的な技術としては初歩的な段階であり、研究面においても、いくつかの局地的な研究が散見されるだけで、海域別に生息する炭化水素分解微生物の生態やその分解能力についてはほとんど知られていない。
 米国では特に地中に漏出した土壌汚染の除去対策の有効な手法として各地で実際に適用されている。海上での、石油流出事故に対しては1989年のアラスカでのエクソン・バルディーズ号の事故時にEPA(米環境保護庁)とエクソン社が海岸への漂着油に対し、試行実験の後大規模に実施している。また、1990年のメキシコ湾のメガボルグ号事故では海面投与なども報告されている。米国ではどちらかといえば手法オリエンテッドで、ある程度の効果があって、特にひどい害がなければ対策手段に組み入れようという積極的な姿勢がみられた。
 もっとも、最近では汚染対策効果を疑問視する声もあり、EPAを中心に、バイオレメディエーションを科学的に評価しようという動きがみられる。




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