高性能な機材があってもそれを使いこなす要員がいなければ宝の持ち腐れです。日ごろの訓練の必要性を感じました。同様なことは油の回収作業についても言えます。
今回の作業は海上作業であることから海難救助会社の指揮下で行われました。作業中に波高が2メートルにも達する嵐に遭遇しましたが、同社スタッフは事前に危険を察知して装置の引き上げを指令しました。おかげで油回収バージは沈没を免れました。この度の回収作業は海上作業における豊富な経験と熟練作業員の存在なくしては成功しなかったと判断しています。

油回収バージで作業する作業員
粘度と回収作業
流出油の粘度も回収作業の成否を左右します。海上に流出した油は短時間に高粘度化することは予想されていましたが、今回はそれが実証されました。OSTSに組み込んでいるブラシコンベアーは高粘度油の回収に効果的であることが実証されました。
しかしながら、回収油移送用のアルキメデススクリューポンプは今回のような粘度には歯が立ちませんでした。相当量の海水を潤滑剤的に利用すれば移送は可能だったかも知れませんが、せっかく回収した油にわざわざ海水を混ぜることもないため、スコップでの人力移送を採用しました。
回収油の移送と貯蔵能力
この度の事故では海上流出油の回収システムには粘度の高い油やムース化した油の回収能力が要求されることが確認されましたが、同時に回収した油の移送や貯蔵能力も回収能力と同等に重要な要素であることが確認されました。OSTS改良の観点からいえばブラシコンベアーで回収した油をそのまま油回収バージの回収油貯蔵タンクに落とし込めば回収油移送の問題は起きません。とはいえ、回収油貯蔵タンクが一杯になれば作業は中断を余儀なくされます。
この方法では油回収バージの回収油貯蔵能力を極力大きくすることが必要です。加えて回収油貯蔵タンクからどうやって回収油を荷卸しするかの問題もあります。
ナホトカ号事故では陸上のピットに蓄えられた回収油は、蒸気やエマルジョンブレーカーで粘度を下げてポンプ移送したようです。OSTSの回収油貯蔵タンクにこのような工夫も必要と思われます。
ブラシコンベアーを船舶の舷側に装着して、回収した油は船上のドラム缶に直接流し込めば、移送と貯蔵の問題は解決します。十分な数のドラム缶を用意しておけば作業は継続できます。ブラシコンベアーで回収した油を海面に浮かべた充気式油貯蔵バージに直接流し込む方法も移送と貯蔵の問題を解決できます。複数のバージを用意しておけば、1隻が満杯になれば空のバージに取り替えることで回収作業は継続できます。
前者の構想は国家石油備蓄基地会社所属の既存油回収船の高粘度油対応油回収装置に、後者の構想は巡視船搭載型高粘度油対応油回収装置に採用されました。
〈図〉海上流出油回収システムOSTS

おわりに
ナホトカ号事件以後も小さな油流出事故が頻発しています。わが国でも欧米のように各種の油回収システムが各地に配備され、迅速な事故対応が可能になることを願っています。