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 従って、これらの海鳥などの被害を調べることにより、下位にある魚類などが受けた被害を想定しうることにもなる訳です。漁業自体も海洋生態系の一部である魚介類を収穫することを鑑みれば、生態系全体を保全することは、漁業の将来を保全することにつながります。
 ひいては人類存続の要件ともなるのですが、日本では海洋汚染被害に対する認識が、非常に狭義に論議される傾向があり、このため野性生物への油濁被害の防除について、ともすると感傷論としてとらえられることが多いのです。


漂着し回収された海鳥の死体

 ましてや絶滅が危ぐされているオオミズナギドリやウミスズメ類ような海鳥への被害となると条約にある通り、その保護及び保全は国家の責務です。
 この数10年、油流出事故が野性生物の個体数やその生息地に壊滅的な影響を与える可能性があるということが認められています。
 エクソンバルディーズ号の流出事故だけでも、30万から64万羽の海鳥、3,500から5,500匹のラッコ、そして数百匹の鰭脚類が直接の影響で命を落としたと推定されています。他の流出事故では、その深刻な油汚染が北海やカリフォルニアの沿岸に生息していた海鳥の個体群を絶滅させています。さらに油流出事故が潮間帯に生息する生物と底棲生物の個体群を壊滅させることも珍しくはありません。
 すぐに生じる被害は前記のとおりですが、表面化しにくい2次的な被害も深刻なものです。例えば油で汚染された貝が、それらを捕食する鳥や潮間帯に生息する動物などを汚染します。海鳥への致死量にまで達しない汚染は繁殖を妨げ、その個体群の被害から回復能力を低減させます。
 どんな影響であっても絶滅危惧種やその餌、生息地に関係してくると、特に事態は深刻です。そこで野性生物とその生息地に対する油流出事故の影響とその影響を最小限に抑えるのにはどうすればいいのかといったことに焦点を当てることが重要なのです。
 失われた収入や財産への被害なら補償金で迅速かつ簡単に償うことができます。しかし、被害地の野性生物の個体群や生態系は回復するのに数年、数10年かかりますし、種は絶滅してしまったら2度と回復することはありません。
 ナホトカ号油流出事故のときには、政府やNGOの野性生物の保護対応のあり方に懸念すべき欠点が目につきました。今後同様の油流出事故が起きたときには、野性生物の保護に今回よりも高い優先順位がつけられ、野性生物が事前に計画された高度な保護体制の恩恵を受けることを望みます。

ナホトカ号油流出事故による鳥類被害(1997.1.8〜3.31)




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