日本財団 図書館


油濁汚染と海洋生物の救護・保全

日本財団 高木純一
(JEDIC・日本環境災害情報センター)


筆者

 みなさんの中にも、あの日本海でのナホトカ号事故以降、海洋での油流出事故があるたびに鳥類や海棲哺乳類などの保護や研究に携わる人々が、事故現場で活躍されているのを見かけられた方もおられるのではないでしょうか。
 きっと現場では「この大変なときに鳥でもあるまいに……。」と思われたことでしょう。そう思われた方々は、「みなさんはなぜ油流出事故の防止と対応のために、そんなにも多くの資金と労力をかけておられるのですか?」と問われたならば、何とお答えになりますか。その答えがお分かりになれば、もうなぜ鳥なのかなどどは思わなくなるでしょう。
 この答えは、みなさんも必ず一度は目を通される「国連海洋法条約」に明記されているのです。条約では前文にこの目標として「この条約を通じ、すべての国の主権に妥当な考慮を払いつつ、国際交通を促進し、かつ、海洋の平和的利用、海洋資源の衡平かつ効果的な利用、海洋生物資源の保存並びに海洋環境の研究、保護及び保全を促進するような海洋の法的秩序を確立することが望ましいことを認識し、」として海洋環境の保護および保全の重要性を掲げています。


福井県柴田動物病院でのウミスズメの洗浄作業

 これを受けて条約の本編では、第12部海洋環境の保護及び保全と題して、第192条から第237条までを割いています。詳しくは条約の当該条項をご覧いただきたいのですが、条約締結国は稀少又はぜい弱な生態系及び、減少しており、脅威にさらされており又は絶滅のおそれのある種その他の海洋生物の生息地を保護し及び保全するために必要な措置を取る責任を負うとも記されているのです。
 水産国の日本では、油濁事故防除の主たる目的は漁業被害防止にあるようです。これに対して先進国諸外国では、生態系保全がその目的とするところです。
 国際的によりメジャーな考え方とは、国連海洋法条約にあるように、海洋生態系は私たち人類存続のために必要な生物資源としての財産であるととらえています。私たち人類も生態系の一部を構成している生物であり、人類が生きていくためにはさまざまな他の生き物との関わりなくしてはいられません。この海洋生態系とはどのようなものかというと、極めて単純化すれば、よく見聞きする食物連鎖のピラミッドということになります。
 この底辺がプランクトンやゴカイなどの底棲生物などであり、その頂点がサメなどの大型魚類やウミガメなどの海棲爬虫類、シャチやトドなどの海棲哺乳類、そしてウミウなどの海鳥ということになりいます。
 これらの生態的に高位にある生物は下位の生物に何らかの問題が起こるとその影響を受けやすく、これら高位にある生物の中で特に影響の確認がしやすい海鳥や海棲哺乳類は、一つの指標生物として扱うことができます。




前ページ    目次へ    次ページ






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION