エマルジョン化が防除作業に与える影響
エマルジョン化が進行すると防除作業が困難になるといわれていますが、具体的には、どのような油の性質の変化が防除作業に影響を与えるのでしょうか?
(1)粘度の上昇
市販の回収装置は、一般に流動性のある油を対象に設計されています。カタログ値に100万cSt対応と明記したものが、数10万cStといわれたナホトカ号事故のエマルジョン化油にまったく役に立たなかった事実が示すように、エマルジョン化が進行した油に無力な回収装置がほとんどです。
また、吸着材や処理剤も無力になってしまいます。
粘度の上昇は回収作業のみでなく、回収後の貯蔵、運搬、処理等の作業に困難さをもたらします。
(2)体積の増大
エマルジョン化した油の体積は、油のみの体積よりはるかに多くなっています。油の体積の3〜4倍近くになるといわれますが、私が行ったC重油のエマルジョン化油実験では、約5倍になりました。油:水=1:4でかくはんすると、すべてがエマルジョン化油となってしまいました。
ナホトカ号事故の回収油水量は、流出油量の約10倍となりました。これには海水・ゴミも含まれていますが、回収量増大の主な原因はエマルジョン化にあります。防除作業に要する労力、費用は、体積倍もしくはそれ以上に増えていくことになるのです。
(3)比重の増大
水分を多く吸収し比重が1に近いエマルジョン化油は、海面でその膜厚を大きくします。粘度が低い油の回収作業は、膜厚が大きい方が効率的なのですが、粘度の高いエマルジョン化油では、回収作業を困難にします。
油にもさまざまなものがありますが、通常の油の比重は0.9前後です。しかし、水分を吸収することで比重が1.0近くになり、さらに沿岸部でゴミ・砂が付着して1.0より大きくなって油は海底にたい積します。この油は、海岸での回収作業終了後しばらく経って海岸を再汚染する場合があります。
回収した油は、最終的に燃焼処理される場合がほとんどですが、水分が多いと困難を来しますし、海水の場合はダイオキシン発生の懸念も指摘されています。
以上のようなエマルジョン化油の防除作業の困難さを考えますと、いかに初期防除作業が大切であるかを痛感させられます。

ナ号流出油事故でのエマルジョン化油との闘い(1)
ナホトカ号事故のエマルジョン化
ナホトカ号事故の防除作業を困難にした要因にはさまざまなものがありますが、その1つにC重油のエマルジョン化があげられます。流出後4日目にして、約120万cStに達したという報告があるように、異常な速さでエマルジョン化が進行してしまい、防除作業は水飴状から粘土状となった高粘度エマルジョン化油との闘いとなりました。
このエマルジョン化の進行速度の速さは、冬期の日本海の海象と低い海水温度にその原因があることは間違いないのです。