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 例えばマヨネーズでは、卵黄が界面活性剤の役割を果たしています。自然界に存在するエマルジョンでは、界面活性を持つ物質が粒子を囲んでいる場合が多いのです。

 エマルジョンには、Water in OilとOil in Waterという2種類のものがあります。前者は、油の中に水の細かい粒子が入ったもので、マーガリンがそれです。流出油のエマルジョン化したものもこれです。後者は、水の中に油の細かい粒子が入ったもので、マヨネーズがそれです。

Water in Oil

 流出油のエマルジョン化したものはWater in Oilで、油の中に水の粒子がぎっしりつまった状態です。多量の水の中に少量の油を分散させるOil in Waterを作ることは比較的容易なのですが、流出油のエマルジョン化のような少量の油の中に多量の水を分散させた状態を作るには、界面活性剤の選定、機械的かくはん方法、混合順序、温度等についての工夫が必要です。流出油の場合、自然はいとも簡単にこれをなし遂げてしまいます。
 エマルジョン化すると粘度が非常に大きくなる理由は、この水と油の分散状態と関係があります。体積の少ない油は、膜状となって水の粒子を取り囲んでいるため、流動時に膜の表面張力が働き、流動に対する抵抗、すなわち粘度が高くなるのです。

Oil in Water

流出油のエマルジョン化とは

 実は、流出油のエマルジョン化についてまだ分からないことが多いのです。波や風による水と油のかくはん作用によって、油のエマルジョン化が起こることは分かっているのですが、油の中のどのような成分がどのような状態で、数10ミクロンといわれている水の粒子を安定に保っているのかがよく分かっていないのです。

 今まで行われた研究によりさまざまなエマルジョン化の要因説が出されています。

?アスファルテン、レンジ等の重質成分(高分子物質)の界面吸着による界面の安定化(機械的保護の形成)
?油中の重質成分(高分子物質)や他の成分の界面活性作用による界面の安定化
?油粘度による界面の安定化
?無機塩類による界面の安定化

 恐らく、1つの要因だけでなくこれらの複数要因が関係して流出油はエマルジョン化するのでしょう。アスファルテン等の高分子物質の含有率とエマルジョン化の関係を調べた研究は多く、エマルジョン化に最も影響する因子と考えられています。
 私が行ったC重油のエマルジョン化実験でも約2%のアスファルテン含有率を持つC重油は、エマルジョン化しても数万cStしか粘度が上昇しないのに対し、4%以上のアスファルテン含有率を持つC重油は100万cStまでにエマルジョン化が進行してしまいました。
 流出油のエマルジョン化のメカニズムについていまだに十分な解明は行われてないため、流出事故が発生した際に流出油の性状がわかってもその油がエマルジョン化するのかしないのか、また、ある海象の下でどのような時間経過を経てその油のエマルジョン化が進行していくのかを正確に推定することができないのです。それが可能になれば防除作業の計画に大いに役立つことになります。(cStセンチトークス=粘度を表す単位で、約1が清水です。数万とは水飴状で、100万cStは粘土状にまでなった状態を表します。)

 

 

 

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