海の気象
数値モデルによる高潮予測の開始
小西 達男
檜垣 将和
(気象庁気候・海洋気象部海洋課)
最近増えている高潮
高潮は、伊勢湾台風(1959年)をはじめ過去に大きな災害を引き起こしてきました。その後、高潮被害の少ない時期がありましたが、1990年ごろから再び増加しています(「海と安全」97年11月号参照)。実際、1991年の台風第19号では瀬戸内海西部の広島県、愛媛県を中心に高潮と高波浪により1万6千戸以上の床上・床下浸水被害が発生しています。その後も1993年台風第13号では兵庫県で、1996年台風第12号で瀬戸内海東部域において被害を生じています。今年も10月始めの時点で既に3個の台風が日本沿岸へ上陸しています。これらの今年の台風は以下に示すように比較的大きな高潮が生じ、東北や日本海などの一部の沿岸では被害がありました。被害が懸念された東京湾、大阪湾などでは、幸い干潮と重なったため大きな被害とはなりませんでした。
気象庁では高潮予測精度の向上を目的として、平成10年7月より数値モデルによる高潮予測を開始しました。本文ではこの方法の概略を説明するとともに、今年の台風についての予報例を紹介します。
高潮数値予測モデルについて
従来、高潮の予測は潮位を観測している地点ごとに求めた統計的な経験式に基づいて行ってきました。しかし、この手法では任意の地点での予測や時間変化を予測できないこと、精度向上に限界があることなどの問題点があります。これらのことから予測手法の改善に関する研究を進め、高潮数値予測モデルの開発と精度確認の作業を行ってきました。
その結果、精度が十分であることが確認されたため、1998年7月1日より同モデルの運用を開始することとしたものです。
高潮数値予測モデルの詳細は、他の文献(例えば「気象」1998年10月号、日本気象協会発行)に譲りますが、日々の天気を予測するために大気物理学に基づく方程式を解いているのと同じように、台風による気圧や風の変化で起こる海水の運動に関する方程式をコンピュータ上で解いて潮位の変化を予測しています。その結果は緯度経度で1分間隔(約1.8キロメートル)で得られ、空間的にきめこまかな高潮の予測が可能となりました。計算対象領域は現在のところ、過去に大きな高潮災害が発生した湾や内海を対象としています。また、台風進路予想の誤差を考慮して、台風の中心が24時間先の予報円の中心とその円周上の4点に達する計5通りの経路について計算しています(図1)。計算した結果は、高潮予報を担当している気象台や測候所へ台風接近時に、日4回、24時間先までの予測データを送って高潮情報の発表に利用されています。次に、今年の台風について結果を示します。

高潮数値モデルの計算領域。24時間後の予報円(台風の予測中心が70%)の確率で入る範囲を示す)に記されている5つの番号は、
1.予報円の中心 2.最も早い 3.最も東より 4.最も遅い 5.最も西より、
を示しこの5つのコースを台風が通過する場合の高潮を高潮数値予測モデルで計算する