漂流ほぼ一昼夜・救助に思う
日本海難防止協会
企画部長
菅野 瑞夫
浮いててよかった助かった
皆さんは、去る9月27日のテレビ、新聞で「相模湾で21時間漂流していた救命胴衣着用の女性が無事救助された」という報道をご覧になったと思います。
私はこの記事をみた瞬間、全国漁業協同組合連合会からいただいた資料に、全国的に沿岸漁業従事者の海中転落事故による死亡・行方不明者が数多く発生していること、救命胴衣、救命衣を着用していた人が少ないと書いてあったことが頭に浮かびました。
私の17〜8年前の釧路在勤中にも、北海道ではこの種事故が多発しており、当時、北海道漁船海難防止センターの方々と一緒に救命胴衣メーカーからサンプルを取り寄せ、検討したことがあり、その後の同センターの「オレンジベスト運動」に拍手を送りつつ、常時着用を唱え続けていたことから、この機会に私の考えを述べさせていただきたいと思います。
図 漂流・救助図

常時着用されない理由
その理由には?意識?製品の双方にあると思います。
まずは「自分は落ちない、大丈夫」と思っていることが挙げられます。
次に製品については、法定のものについては「作業に不自由、通気性が悪く、暑い」ということのようですし、一方最近開発されている救命衣(本稿では法定でないものをいいます)については、法定の救命胴衣よりも作業性、通気性はよいものができているものの、この程度の改良性にまだ漁業者が満足しないこと(100パーセント満足するものは無理でしょうが)、価格がまだ少し高いとみていることが挙げられましょう。
更なる製品改良を期待
このたび、メーカーに最近の製品を見せていただきました。従来の製品より本当に軽い、動き易い、また背中・脇・肩の部分がメッシュになって通気性も向上しており、そして価格も12,000〜3,000円と私の予想よりは安くなっていることに感心しました。
ただし、私が調べた海洋レジャー用の救命ベストでは、カラフルでロゴマークなどがあり、価格ももう少し安いものもみられました。
その町、漁業者に常時着用を勧めるには何とかもう少し安価な製品の開発、改良ができないものかと思いました。
開発、着用での割り切り
ここで最初に挙げた事例の「浮いていれば助かる」ということを重ねて強調したいと思います。
なお、誤解のないように申し上げますが、このことは、次項に述べる早期の捜索開始が期待できる沿岸部での主として1人乗り漁船の事故を想定してのことで、突発的に海中転落(転覆や当て逃げされた場合を含む)した場合に生きるためには“着ないで、死ぬより着てれば助かるもの”と割り切って考えるべきです。
先ず、研究を重ねて、常時着用型は「浮力は6.5??」で大丈夫との確信を得て製品化されたことを高く評価したいと思います。
この適切な割り切りをベースに、次は関係者でさらに知恵を出し合って、エアーバッグのような新しい発想を駆使して、もう1歩漁業者の要望に近づいた救命衣の開発を期待したいと思います。