海難体験発表
海に生きる
日本水難救済会厚岸救難所
副所長川村治

私は、漁業者であるとともに、先程の海難体験を発表された小野さんと同じく厚岸の救難所員として海難救助に数多く出動しておりますので、最近の海難救助体験についてその報告と、あわせまして海難防止に対する取り組みについて発表させていただきます。
昭和10年、所員35人で発足しました日本水難救済会厚岸救難所は、63年の歴史があります。
その足跡をたどってみますと出動救助件数543件、459隻の船体と2844人の人命救助、342億円の財産を救助しております。
おそらく、この実績は、全国の水難救難所の中で最多救助件数と思っております。
当地区の周辺海域は、資源豊かな漁場として国内漁船はもとより外国漁船も操業しており、最近では多数のプレジャー船が航行しており救難所として多様な対応が迫られております。それでは、平成9年8月2日の海難救助に出動した事例についてお話しいたします。
当日は、濃霧と波浪のためにコンブ操業が中止となりましたので、前日までに収穫したコンブを整理しておりました。組合からの防災無線で緊急招集があり、早速出動態勢を整えて救難所に集合しますと、厚岸湾間口の大黒島にサンマ棒受け網小型漁船が座礁し、乗組員は救命ボートで脱出したと、厚岸漁業無線局から通報がありました。
救難所としては、関係機関に対する海難発生の第一報と同時に現場に最短距離の厚岸小島に在住する久保山救難所員に緊急出動を命じたところ、同所員は現地漁業者の協力を得て、コンブ漁船3隻に7名が分乗し、現場状況を調査中とのことでした。この間にもサケ定置網漁船に乗り組み出漁中の救難所員も緊急無線を傍受し、救助船の到着までの現地状況を通報するなど、永年の歴史に裏打ちされた厚岸救難所員の連係プレーにより救助態勢はてきぱきと作りあげられました。
遭難船乗組員の厚岸港への緊急輸送や、視界30?以下の濃霧の中で、多数出動している救助船の二重海難を予防する処置、また、すでに多少流出しつつある座礁船の流出油防除対策等々、大切な資源を守らなければならない漁場での事故処理は、多くの問題、危険を抱えております。同日の船体を引き下ろすための離礁作業は、釧路海上保安部の出動巡視船の状況判断により、午後4時20分に中止命令がありまして、翌日燃料抜き取りのための作業船4隻を従えて離礁えい航作業が行われ、2日間にわたる濃霧と波浪の中での危険をおかした海難救助が実施され、無事5人の尊い人命、船体を救助しました。
ボランティアといわれる水難救助所員の自負と、郷士愛に根ざしている行動は、地域漁民の信頼となり、多くの支持を得ているものと思っております。
釧路管内には5カ所の救難所がありますが、私たちの所属する厚岸救難所は、浜中町、昆布森救難所とともに釧路東部救難所連絡協議会を設立して、合同訓練、研修研鐙に努め、海難事故が発生した場合に、3救難所が連携協力して救助にあたることとしております。
いま組織の改編が進められておりますが、この自然に恵まれた豊かな海と、子々孫々に引き継がれる郷土を守り、誇りを持って海難防止や海難救助に活躍できますよう、関係皆様のご協力、ご支援を改めてお願い申し上げまして体験発表とさせていただきます。
安全操業宣言
回りを海に囲まれた北海道、われわれはその海を心のふるさととし、生活のあらゆる面に多大な恩恵を受けてきました。
北の海は、ときには雄たけびをあげ、荒れ狂い、冬には流氷に覆われ、われわれを因らせることもあります。
しかし、いつもは優しくわれわれを包み込み、豊かな資源を育んで心の安らぎと海の幸を与えてくれます。
海を生活の基盤としているわれわれは、第6回目の漁船海難防止全道大会への参加を契機に、明るく豊かな漁村を築くため海難防止に最善の努力を尽くすことをここに宣言します。
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