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 事故防止・安全対策の取り組み

−課題と方向− 

 では、安全対策を進める上でのポイントはどこに置くべきか。それはまず第1に、運動の組織作りに置かなければならないだろう。行政、漁連、漁協、漁業者組織(業種別部会等)の中に安全対策関係の担当者を配置し、それを基礎として地域の安全対策組織を作ることがまずは必要である。  たとえば、北海道・東北の漁船海難防止連絡協議会は安全対策運動の核として重要な役割を果たしているし、岡山県では漁連、漁協、メーカー、水産業改良普及所等が連携・協議し、海中転落防止のための「手すり」設置を、行政の支援を引き出して実現したという事例がある。現場の漁業者および関係機関が安全対策のための恒常的組織を待つこと、そして行政がそうした組織作りを支援すること(たとえば安全指導員制度のような施策が検討されてよいのではないか)こそ、安全対策の出発点として重視されねばならない。
 第2に、そうした組織で地域の事故事例等をよく検討し、重点を定めた対策を打ち出すことが重要である。地域の実情に即した対策、実行可能な対策を漁業者および関係者自らが能動的に検討し考案すること。それがあって初めて前記手引きや各種の講習会、パンフレット等が生きてくることを強調したい。またその際、費用をかけずに直ちに失行可能な対策が数多くあることにも留意するべきだと思う(たとえば、定時連絡や集団操業のルール作り等)。
 第3は、対策を実効あらしめるための組織的取り組みを重視することである。たとえば婦人等を含めた幅広い漁業者の運動への参加を組織すること、そのために漁業者自身が自らの言葉で仲間に運動参加・安全対策の順守を呼びかけること、考案した安全対策を組織的な決定事項として周知徹底すること等がその要点となる。実際に北海道等で行われている救命衣の常時着用運動は、漁協総会等でそれを決議し、違反者に対する罰則を組織的に定める等の措置を講じることによって実効をあげている。やや稚拙な言い方だが「みんなで考え、みんなで決めて、みんなで守る」ことが大切なのだと思う。

 まとめ

 以上述べたように、安全対策の成否は漁業者自身の主体的・組織的取り組み如何にかかっている。当然のことだが個々人の注意力には限界があるので、特に体力や視力、聴力等が衰える高齢者の場合、その点は一層顕著なものとなる。要するに、ポスターや標語等に象徴されるいわば外在的な注意喚起だけでは事故はなくならないのである。
 往々にして漁業者は「海のプロ」という意識から、慎重な安全対策を怠りがちである。たとえば救命衣の着用を「格好が悪い」として怠るような風潮がその典型であろう。しかし、本当のプロならば安全に細心の注意を払うのが当然ではないか。そして、安全確保を個人の注意力や経験に委ねるのでなく、組織的に、いわばシステムとして構築することが漁協、漁連、行政機関、ひいては国の責任ではないか。ことは人の命に関わる問題である。水産行政における安全対策関係施策の抜本的強化を切に期待したい。

 

 

 

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