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 このような収束帯の様相は、その後徐々に解消に向かいましたが、7月になってもそのこん跡は残ったままでした(図2)。その結果、フィリピンの東方海域である程度の雲域がまとまって台風の卵ができかかった場合にも、その後台風の強度にまではなかなか生長できませんでした。

図2 西部熱帯太平洋の月平均上層雲量(1998年7月)単位℃

 このようなことから、今シーズン前半の台風活動は非常に弱く第1号の発生も遅れることになりました。「エルニーニョが終われば、フィリピン東方海域の海面水温が上がり、台風の発生が増える」という、これまで一般に考えられていたシナリオが必ずしも通用しないことが分かりました。台風の発生動向にも、地球規模の気象変化が影響していると考えられます。しかし、その根本原因を確定するには、エルニーニョの消長と同様に、これからの研究の成果を待つしかありません。

72時間進路予報の精度

 予報円の中心位置と、後の解析で確定した台風中心位置との距離を予報誤差と呼びます。最近16年間の台風予報誤控の年変化に見られる右肩下がりの傾向は、予報精度が着実に良くなっていることを意味します(図3)。特に、48時間進路予報での精度向上が目だっています。
 気象庁が改良を進めてきた台風数値予報モデルが、予報精度の向上ト予報時間の延長に大きな貢献をしているのです。

図3 台風24-48-72−時間進路予報の各平均予報誤差(1982〜1997年)

 平成9年の7月から気象庁は、台風の72時間進路予報を開始しました。72時間進路}報の予報誤差は、合計321回の予報についての平均値で380キロメートルでした。(24時間・48時間の各予報誤差は、144キロメートル267キロメートル)。
 予報円の大きさは、動きが遅いと予想された台風ほど大きくなります。現在、時速20キロメートル以上の動きの速い台風に対する最大の予報円半径は、72時間予報の場合、380キロメートルに設定しています。これに加えて、転向後の台風は移動速度が速まるので、事前の予報より早めに台風が転向した場合には、その後の予報誤差は時間とともに大きくなります。反対に、転向を予想していた台風が実際には迷走し始めるような場合にも、予想誤差が大きくなります。
 平成9年の2個の台風事例では、予報誤差が全体の、平均誤差の2倍を超えてしまいました。この両台風には、少し迷走した後で急に進路を北から北北東向きにとったという共通点がありました。
 このように、台風によっては複雑な動きをする場合がありますので、常に最新の台風予報をご利用くださるようにお願いします。
 なお予報時間の延長と合わせて、予報円に人る確率をそれまでの60%から70%に変更しました。 ここで紹介した台風予報の特徴を踏まえて、船舶の運航計画に役立てて下さることを期待します。

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