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わが国の国内法の遅れ

 しかしながら、わが国の船舶が公海上で襲撃された場合は、もしも当該海賊船を拿捕し得たとして、これを強盗や暴行や傷害等でわが国の裁判所で裁くことは可能でありますけれども、海賊が、日本船舶以外の船舶を公海上で襲撃している場合は、これを国内法(日本の法律)で処断する、つまり海賊行為そのものを処罰する刑法の規定は日本にはありません。
 国際法上は明らかに犯罪であり違法行為ではあるが、その受皿としての国内法がないというのが実際です。
 国際法の山本草二教授(海洋法裁判所裁判官)は、このような事態は国家の無責任といわれてもいたしかたないのでは、と述べておられます(山本草二、講演録・海洋法を育てる力)。

外国の有罪判決

 ベルギー最高裁判所は、グリーンピースが有害物質を垂れ流しているという理屈をつけて、公海上のベルギーの船舶に対して、船に乗り込んで器物を損壊し、船の航行を妨害したという行為をとらえて、海賊行為に該当するとして有罪の判決をだしております。
 これはかなり大胆な判決といわれているようですが、ベルギー最高裁判所が、グリーンピースのそのような暴力行為を海賊だと断定した根拠は、第1に、そのような行為は海洋法条約に真正面から違反すると解釈したこと。次に、そのような条約違反の行為を国内刑法上の犯罪としてこれを処罰する国内法制をベルギーがもっていたということであるようです。
 国際法からみても非難できるし国内の刑法からみても犯罪だという支えがあったからこそ、海賊だと認定して刑罰を科すことができたとされております。このように国際法上の海賊は、どこの国の軍艦や警察用船舶であってもそれを拿捕し、自国に連行して裁判に付し処罰することができるとされる。海賊は、改めて確認しますと、私有の船舶・航空機で、公海上で、他の船舶・航空機に不法な暴力行為、抑留、略奪行為を行うものでなければならないとされます。

日本の対応

 ですから、ある国の領海内で生じた場合は国際法上の海賊にはならないことはすでに述べたとおりです。
 そして、東シナ海から南の方の公海で、外国の公船らしいものが日本船や外国船を捕まえて、船に乗り込んで略奪するといった海賊まがいの事件の場合、被害船が日本船の場合には、客観的属地主義により、たとえば暴行とか監禁罪という犯罪にバラバラにして処罰することは可能かも知れませんが、それ以上に海賊行為そのものとして処罰することはできません。
 そして、それが公船らしいのであれば、結局はそういう現場でやっている行為を取り囲んで、そういう干渉とか実力行使をやっている事実証拠を集めて、その上で国を通して相手国に抗議して後始末を要求するとういのがぎりぎりの限度であるということになります。

新しいタイプの海難

 先に引用しました山本草二教授はこの点について、「遠い公海でそういう暴力行為に襲いかかられ危険にさらされている船、これは新しいタイプの海難といってもいいでしょう。
 海難とは、昔は火事を起こしたり、あるいは座礁し難破した場合をいったのですが、近年は、そういう不審船に襲撃されて航行の安全を侵されるという意味で、新しい海難と考えていいのではないのでしょうか。
 そういうような救助・救援を求める声が上がったときに、それを見て見ぬ振りをする、法律上の根拠が十分でないから手出しをしないというのでは、棄民の思想だともいえましよう。
 海で危険にさらされている人が、助けてくれといっているときに、すぐ出ていって保護する、あるいは、違法行為の現行犯を押さえるということを通じて海の秩序を守っていく。これが海上保安の本来の責任であり、海洋法を動かし育てていく原動力になると考えます(前出、海洋法を育てる力)。」と述べておられるのは、傾聴に値すると思います。

 

 

 

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