現代の海賊
では現代の海賊とその取り扱いはどのようになっているのでありましようか。
国際法辞典では、海賊〔(英・仏)pirate(独)pirat〕とは、公海において他の船舶に対して不法な暴行や略奪を行うものをいう。海賊行為は古くから人類一般の敵といわれて、いずれの国も公海において海賊を捕らえ処罰することが許されてきた。
公海自由の原則に基づき、公海にある船舶はその所属する国(旗国)の排他的管轄権のもとにおかれて、他国は干渉できないことになっているが、これを徹底するならば、公海上で違法行為を行う船舶を他国が制止できないことになる。
そこで国際法では、公海の秩序を維持するために、この原則に対する例外として他国の船舶に干渉できる場合を規定しているが、その1つが海賊行為である。したがって、いかなる行為が海賊行為に該当するかについては、例外規定である以上その乱用を防止するために、厳格な定義が必要である、と説明しております。
これを国連海洋法条約にそってながめてみますと、海賊行為とは私有の船舶・航空機の乗組員または乗客が、私的目的のために、公海上にある他の船舶・航空機またはこれらの内にある人・財産、またはいずれの国の管轄権にも服さない場所にある船舶・航空機・人または財産に対しての不法な暴力行為・抑留または略奪行為(同条約101条)をいいます。
海賊行為は、本来国家の排他的管轄権のおよばない公海上における国際交通の安全を害するために人類共通の敵としてこれを抑圧する対象とされてきました。
ですから、ある国家の領域内における類似の行為はもっぱら沿岸国が抑圧すべきものと考えられ、国際慣習法上の海賊行為からは除かれます。
つまり、日本船舶が、外国の領海内で海賊に襲われても、それは国際法上の海賊ではなく、日本国が直接手をだすことはできないということになります。
海賊行為の目的は、略奪の意思を有する場合に限定されるわけではなく、私的怨恨でもよく、略奪・抑留に限らずすべての暴力行為が含まれます。
そして、海賊行為は、ある船舶・航空機から、他の船舶・航空機に対する行為と定義されますから同一の船舶・航空機内でその乗客・乗組員が暴力・脅迫を用いて行う行為は、海賊行為に該当しません。
海賊行為の主体が、海賊私有の船舶・航空機に限定され、軍艦・公船(または政府の航空機)が除かれるのは、軍艦等は国家の命令または権限の委任を受けて行動する性質のものだからとされます。
しかし、このような海賊行為であって、乗組員が反乱を起こして支配している軍艦または政府船舶若しくは航空機が行うものは、私有の船舶または航空機が行う行為とみなされます(同条約102条)。
そして、このような海賊行為に対しては、「すべての国は、最大限に可能な範囲で、公海その他いずれの国の管轄権にも服さない場所における海賊行為の抑止に協力する(同条約第100条)」とされる。
そして「いずれの国も、公海その他いずれの国の管轄権にも服さない場所において、海賊船舶、海賊航空機または海賊行為によって奪取され、かつ海賊の支配下にある船舶または航空機を拿捕しおよび当該船舶または航空機内の人を逮捕しまたは財産を押収することができる。
拿捕を行った国の裁判所は、科すべき刑罰を決定することができるものとし、また、善意の第3者の権利を尊重することを条件として、当該船舶、航空機または財産についてとるべき措置を決定することができる。(同条約第105条)」ものとされています。