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岡本 日本人の安全に対する考え方は、何か事故が起きないと目を向けないし、お金も出てきません。安全と水と空気はタダだという意識があるのでしょうか。企業にもそういう面があります。
 安全保障についても、日本は今平和であるから国の防衛費はいらないじゃないかという意見もあります。防衛力があるから国が平和であるというのが、世界の考え方です。
 国防があるからお互いに抑制が効いていて戦争のない世界になっている。そのために安全保障にお金をかけるのは当然だと……。これは、平和のパラドックスといっております。事故が起きない限りではお金はかけない。しかも安全だからといって経費を削っていく。この間の神戸の大震災にしたって、あれだけの直下型の地震が起きたときにも耐える建物の建造をという声が一時的に広まりましたが、1000年に1回か2000年に1回かの災害に金をかけるわけにはいかないということでもとのところへ戻ってしまいました。
 自然に対して、それを征服して自然の流れを変えてでもという意識がない国というのは、ある程度諦観がどこかで入り込んできて、かける経費は少なくなる面があるのでしょうね。無駄だという意見が出てくるのですね。

沼田 日本は海に囲まれ、世界的にみても海岸線が長いので、それだけの安全対策は必要ですね。どこの国の船でもどこからでも入って来れるわけですから。

岡本 昔は海難事故が比較的少ないというのは、考えようによっては海をそれほど利用しなかったという面もあるのでしょうね。海の利用が多くなれば比例して危険性も多くなるわけですね。それに対して、どれだけ事故に対する備えをつくるか、これも国民共通の問題だと思います。
 スイスは、平和な国であるために国民皆兵に近いような重武装をしています。針ネズミのように武装している国です。その上にこの国の平和があります。安全に海を楽しむためには、安全に相当部分の投資をするというのは仕方ないことだ、それはコストだと割り切るみんなの共通認識が生まれないといけないと思うのです。
 工場を建てる、ばい煙が煙突からもくもくと吹き出す、それに脱硫装置をつけて環境浄化するようなモデル工場にするためには余計なお金がかかって、これは生産性には寄与しないですね。それをやったら企業はもうからないどころか損してしまう……となると、横並びでいけばどうしても、競争の上では損ですから、みんなやりたくない。そこを一定のパーセンテージは必ず環境浄化のために使うのだと義務付ける、あるいは民間の意識を一緒にすれば初めて海難の防止もできます。それをやらないで、対症療法にだけ、つまり事故が起こったから救助に行け、おぼれた人を助けろというのは海上保安庁などの関係者に気の毒な気がします。

沼田 そのような大事な地道な仕事が国民のみんなの目にはなかなか触れませんね。海上での事故は陸と違って取材にすぐに行けませんし、写真映像にはなりにくいフィールドなのでしょう。

岡本 マスコミにも考えてもらいたいし、海上保安庁にも積極的に、そして何よりもすばやく、写真・VTR映像などを提供する努力が必要なのかもしれません。
 話が変わりますが、沼田さんは海上保安庁の船にのられたことがあるとか。

沼田 観閲式のときに「やしま」に2回乗せていただきました。整然としていてりりしさがあっていいですね。
 船団を見るとわけもなく興奮しますね。そして海上での救助がいかに大変かを実感しますし、日ごろの訓練がいかに必要かもわかります。皆さんの勇ましい姿を見て心強く思いました。
 海上保安庁の敬礼は違うのですか(敬礼の真似)。また、これから遠洋航海に出るという海上保安大学校の学生さんが練習船こじまの甲板に1列に並んで別れのあいさつの敬礼をしたのがすてきでした。


海上保安官の敬礼を真似ておどけて見せる沼田さん


 

 

 

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