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海と写真

岡本 沼田さんがお撮りになった写真を拝見しまして、アマとプロは違うなと思いました。私はアマにも入らないのですが、海の中に入って写真を撮ることを趣味としておりまして、どういう感性で物事をとらえておられるのか、海との関連で今日はぜひお聞きしてみたいと思ったものですから大変楽しみにしておりました。
 専門は人物のポートレートとのことですが、海のことについてお聞きします。被写体として茫漠たる海は見ていて絵心がわくようなものですか。

沼田 海の色は刻々と変化しますし、波の形も千変万化なので数多くの写真が撮れますが、私はどちらかといえば、自然だけよりもそこに生活している人たちがいてドラマを感じることができる海が好きなんです。
 何年か前に瀬戸内海汽船から撮影依頼があり、瀬戸内海の島がどんどん変わっていくのでそれを撮っておきたかったし、結構おもしろいテーマだったので、2年くらいいろいろな島に通って撮りました。海は茫漠たるとおっしゃいましたが、人物を撮るにはすごくいい背景なんです。
 複雑ではないので人間がぐっと前に出てきます。私は普段でも人物を撮るとき、その人物の生きざまが出てくるので、バックをホリゾント(何もないバック)で撮るのが好きなんです。自然の中で人間が浮き出てくるし、体にまとわりつく風も映るし撮ることができる海は大変プレーンでいいですね。

岡本 そのお話はほんとによく分かりますね。私は写真を撮りに行くわけではなくて、疲れて海へ行くのですが、そうしますと、自分の中にあった壁までなくなる。普段ものを見るとき必ず自分なりの体験とか価値観とかがスクリーンになっていますが、それを忘れさせるあの解放感は何物にも替えがたいものですね。

沼田 人によって海がいい人・山がいい人と、2つに分かれるような気がしますが、写真を撮る側からいうと、海の方がかざらない人間そのものが表現できるような気がします。

岡本 「瀬戸内海に生活する人々」あれは会社の観光宣伝用に撮ったのですか。

沼田 宣伝用に撮ったのですが、「好きなように撮ってください」ということでしたので、いろいろ調べてある島に行きました。以前は何家族か住んでいた小さな島ですが、そのときには廃虚になってしまって、60歳くらいの方が会社をリタイヤされ東京に家族を残して1人で住んでいらっしゃいました。その方を撮ったのですが、海に囲まれた生活に安らぎを感じているようでした。

岡本 私もあるところから頼まれて、これから宣伝用の海の中の写真を撮るのです。
 昨年でしたか、沖縄のいろんなところへ行きましたが、泡盛を飲みながら調子のいい約束をしたのです。沖縄の北部に伊江島というところがあります。そこは海の中もきれいに違いないと思い、「もっと観光用のパンフレットなどを、写真家を呼んで作って出したらどうですか」といったら、「お金はありませんが、岡本さん頼みます」というので、酔っぱらって、つい「はい、やります」といってしまったのです。
 沖縄の人は実直で誠実な方々で、彼らはいったことは必ずやりますし、その代わりこちらがいったことも期待されます。電話がかかってきて「いつ撮りに来てくれますか」と聞かれるのです。
 地方に行くとよく見かけるもので、名刺の半分くらいにその地方の風景の写真を入れたものがありますが、それに使い、また村の宣伝用パンフレットに入れますといわれ、困ったことになったと思っております。
 海に入るときフィルムは36枚しか持って入れまぜん。プロは2、3台のカメラを持って入りますが、私の場合は助手がいるわけでもありませんし……。その中でたまたまいいものがあれば年賀状にでもしようかということにしているのです。
 伊江村の依頼で潜るので、お金をいただくわけではないですが、写真がうまく撮れなかったらどうしょうかと、今から戦々恐々としています。


 

 

 

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