台風による波浪の特徴
台風による波浪は台風の強風・暴風域で発生、成長します。台風が強いほど高い波を伴います。台風が停滞している場合は中心からほぼ同心円状の波高分布になりますが、進行している場合は中心の進行方向右側にズレて最大波高域が生じます。
これは台風の右半分で台風自身の巻き込む風に台風の進行速度分が加わって強風となるためや、台風域内の波浪が台風と同じ方向に進み、長時間にわたって同じ方向の風を受け続けることになって波浪の発達が促進されるためです。海上にあっては、台風の風とともに波浪の分布にも注意をはらって避航コースを選ぶ必要があります。
台風域内で発生した大きなエネルギーを持つ波浪は、周囲に広がっていく段階で周期の長いものほど減衰が少なく、遠くまでしかも台風より早い速度(周期10秒以上の波は1日に約1000キロメートル進む)で伝わります。こうして台風から送り出された波はうねりとして広い範囲に広がり、台風がまだはるか南の洋上にあって天気には全く影響のない時でも海岸に打ち寄せてきます。
いわゆる「土用波」がそれです。台風からのうねりは、海岸に近づいて浅瀬にさしかかると急に波高が高くなることがあり、海岸でも十分な注意が必要です。
沿岸で作業をしたり遊んだりするとき、波の性質、ことに台風の季節にはうねりについての知識がないと危険です。海で波を見る(目視観測する)とき、人の感覚で「Xメートルくらい」と感じる波高がほぼ有義波高に対応しますが、この有義波を基準に考えたとき、100波(台風によるうねりの場合、およそ、20分間)に1つは有義波の約2倍にもなることを知っている必要があります。
「1発大波」と呼ばれる波もありますが、海岸に打ち寄せる波の中に、時々大きな波があるのを見た経験がある方は多いでしょう。
おわりに
過去の代表的な台風による海難事例としては、昭和29年の台風第15号(洞爺丸台風)による、函館沖での青函連絡船沈没、昭和40年の台風第29号によるマリアナ海域での漁船遭難、昭和54年の台風第20号から変わって発達した低気圧におる北海道太平洋岸での漁船や貨物船の遭難などがあります。
今日では、台風や低気圧の位置とその盛衰変化の監視を、さらに洋上の海上風や波浪の観測も人工衛星によってできるようになりました。このような観測手段の拡充や数値予報モデルの進捗により、台風情報・予報の精度がよくなりました。
近年、海上気象報の充実もあって、過去の事例のような痛ましい海難は少なくなってきましたが、台風や台風に伴う波浪は、依然として洋上での海難や沿岸での災害に直結する重大な現象です。自然の脅威を常に忘れず、気象庁が提供する海上気象情報を活用して、十分な情報把握とそれに基づく適切な対応をお願いします。
(注) 有義波高とは、実際の波はいろんな波高(周期)の波が入り交じっているので、これを数量的に取り扱うために、ある地点で10〜20分間に観測された波を高い方から順に3分の1を選び、その高さを平均したものです。天気予報や海上予報で使用している波高もこれで、人が目視で感じる波高に対応するとされています。
〈訂正〉6月号の筆者・太原義彦を太原芳彦と訂正します。
