海洋性レクリェーションにおけるバリアフリーとは、第1にアクセシビリティ(海への近づきやすさ)、第2にマヌバビリティ(移動性および活動性)、そして第3にアメニティ(快適性および利便性)の確保である。また陸上と異なる点は海という特殊環境にある。海洋性レクリェーションにおけるバリアフリーを考慮するに当たっては、空間を沿岸陸域、海岸線、海域に区分してそれぞれの空間的特性を考慮した整備方針を検討する必要がある。特に海域には自由な活動を阻害する波や流れ、浮力や水の抵抗などがあり、身体的機能障害者にとってはまさに精神的・肉体的にバリアとなっている。
最近では、陸域においても障害者用のトイレや車椅子でのアクセシビリティを考慮した斜路の整備、階段での手すりの設置なども進んでいるが、全体的に未整備であるのが現状である。たとえさまざまな施設のバリアフリー化が進行しても、もっとも遅れているのが施設間のネットワークである。最寄りのバス停や駐車場から海浜公園、砂浜、マリーナヘのアクセスは確保されていても、相互のアクセシビリティはないに等しいのが現状である。また障害者用トイレが設置されている海浜公園やマリーナ、ビーチにおいてもそのトイレを利用しようとすると近づくことさえ不可能な場合が多い。海洋性レクリェーションのバリアフリー化においてもっとも重要な計画概念、心は必要なときに必要な場所に自由に移動できるというネットワーク・ノーマライゼーションであるといえるだろう。
海岸線近傍では砂浜自体が障壁となって歩くことや車椅子での移動に困難がともなう。
最近では砂に車輪が埋まらないような幅の広いタイヤを装備したバルーンタイヤの車椅子が開発されている。この車椅子に乗ると砂浜を移動したり、遠浅の海岸を自由に海の中まで入って散策を楽しくことができる。しかし車椅子の重量が重く介添え者が押すのには難点がある。これらのものも含めると、海洋性レクリェーションの整備課題には空間整備、施設整備、機器および道具類の整備が3つの重要な視点であるといえよう。

バリアフリーを考慮した電話ボックス。
オープンタイプで子供も車椅子利用者も利用しやすいように低位置となっている
高齢化社会と海難防止の視点
海洋性レクリェーションにおけるバリアフリーが推進されると、その対象となる高齢者人口が4,000万人、障害者人口5,000万人、幼児および児童人口500万人、妊産婦および傷病者(入院患者および退院患者、通院患者を含む)が2,000万人、合計7,000万人の人々が機能障害または機能低下を有して海とつきあうことになる。これらすべての人々が海に出るというわけではないが、今までより多くの高齢者が海と深い関わりを持つようになるだろう。
アメリカで社会問題化しつつあるものに高齢者の自動車事故がある。高齢化にともなう運動機能の低下、視野狭さく、動体視力の低下、各種臓器の機能低下などによって自ら起こす事故の増加、それにとどまらず他の車を巻き込んで他人の生命財産を消失させるということが頻繁に起こることになる。同様なことが海においても発生することは想像に難くない。船舶同士や岸壁などへの衝突事故、船舶からの落水、船舶の座礁、不注意による船火事、操船中の疾病(心臓発作、脳溢血など)による漂流などの危険性が増加する可能性がある。さらにこれらの事故はプレジャーボートなどの船舶事故にとどまらず、フィッシング、ダイビング、ビーチレクリェーションなども例外ではない。また高齢化が深刻な問題となっている漁業においても同様な問題が多く発生する可能性がある。まさに「老人と海」が今後のわが国において大きな社会問題として注目されるであろう。そのための対策は十分に検討されているのであろうか。
一般にわが国の行政は問題解決型の傾向にあり、多くの問題が発生してからその解決のために法整備を行い、その上で予算処置をし、設備機器や人員を確保したりするのが通例である。
現実問題としてわが国はすでに国際的に例を見ない高齢社会であり、近い将来には人類史上における初めての超高齢化社会を迎えることとなる。その意味で海のバリアフリー化はまったく進展しておらず、早急な対応が求められているといっても過言ではないだろう。換言するならば、目標設定型あるいは予防療法アプローチの行政手腕が求められているのである。さまざまな問題が多発することは予想のうちにあり、ある目標を設定しながら問題が発生する前に適切な対応をすることが肝要である。

高齢者および障害者を考慮した海浜のプロムナードと海へのアクセス