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 すなわち高齢化社会の課題は高齢者問題にとどまらず、各世代の問題としてひいては全国民の課題として理解されなければならない。そして高齢化社会の問題を明らかにするためには、いろいろな学問・研究領域の協力を内容とする学際的接近が必要となるとともに、高齢化社会への対応を図るためには行政面でも各省庁の枠をこえた努力が求められることになる。



海水浴場におけるライフセイバーの監視塔。
海辺に面して救助用ボートが見える

海洋性レクリェーションにおけるバリアフリー整備

 近年障害者施策には新しい理念がつぎつぎ導入され、日本の障害者福祉は新しい展開を示しつつある。そのような新しい理念の形成には障害者本人やその保護者などによる当事者運動が重要な意味をもつ。日本における障害者福祉運動は1960年代ころから全国的な展開をみせはじめる。62年には全国言語障害児親の会、63年には全国心臓病の子どもを守る会、64年には全国精神障害者家族連合会、全国重傷心身障害児を守る会、66年には全国視力障害者協議会が結成されている。
 これらの運動は、60年代後半から70年代前半にかけて人権思想を基盤としつつ行政に対する要求の実現、伝統的な入所施設中心主義に対する批判などを中心に、日本の障害者福祉の進路に重要な影響力を与えてきた。なかんずく身体障害者を中心とする障害者自身による人権主張や制度改善要求の果たした役割には大きなものがあった。彼らの運動はやがて自立意識の高揚とともに社会の一員として、自立的に生活する市民として自らを位置づける運動となった。この運動は必ずしも経済的自立のみを目的としない。それを頂点としつつも、障害の程度や内容に応じてそれぞれの水準での自立がありうると主張する。
 このような新しい運動の展開は、ノーマライゼーションとインテグレーションの理念を継承しつつ、自立生活の実現とそれを支援する活動に展開してきた。
 さらには、障害者福祉に関わる新しい理念としては「バリアフリー」(障壁のない)の思想がある。この思想は建造物や道路から障害者の自由な移動を妨げるような段差や障害物を取り除くとともに、エレベーターその他の施設設備を設けることによって障害者のノーマライゼーションや社会参加を実現しようとするものである。1994年に制定された「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の促進に関する法律(ハートビル法)」はこのような理念を実現しようとするものであり、特定建築物の障壁を除去する水準である「基礎的基準」と、障害者等が何不自由なく建築物を利用できる水準を示す「誘導的基準」が設定されている。
 このようなバリアフリーの思想は高齢者や身体障害者のみならず、子ども、妊産婦、傷病者を含む市民すべての生活に当てはまるものである。このようなバリアフリーの対象となる人々の数は国民の60%(約7千万人)を占めるといわれている。


海水浴場での禁止行為(右側)および注意すべき環境条件(左側)を示したサインボード

 

 

 

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