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特集 老人と海

日本大学教授
近藤 健雄


近藤 健男氏

 小子・高齢化時代を迎え、高齢者の海洋レジャーへの参入が期待される。しかし、海浜のレジャー施設の整備はまだまだだ。特に、介添えを必要とする高齢者の海洋レジャーへの受け入れ体制も課題だ。
 障壁のない海浜に太陽や潮風を求め、母なる海に安らぎを得る海洋レジャーは、老人と海との大切な係りなのだ。

はじめに

 「老人と海」というと、あの有名なアーネスト・ヘミングウェーを思い出す。年老いた漁師と大魚との何昼夜にもわたる格闘を描いた作品である。老人は細い釣り糸を通して大魚とコミュニケーションをし、最後には大魚との相互に苦悩するやり取りを語っている。まさに生死を賭けた神話的な死闘を描いた作品に、読者は感動を覚えたものである。この作品が出版されたのは、1952年というから、私が生まれてから5年後ということになろうか。彼はこの作品で1954年にノーベル文学賞を受賞した。この作品を読んだのが中学生の時であり、そしていつの間にか気がついたら私はこの「老人と海」を書いた彼の年齢に達していたのである。
 彼が悲劇的死を迎えたのが、1961年、62才の時であった。今のわれわれと比較すると晩年の彼は老けて見える。彼はなぜ自殺したのか、その意味はわからない。しかし、彼の人生を振り返ったとき、老境を迎えた彼が何を思ったかは想像に難くない。
 私はここで年老いたヘミングウェーと彼の作品について語ろうというのではない。超高齢化社会を迎えるわが国の現状を考えたとき、私たちは海でレクリェーションを楽しむことができるのだろうかという疑問がわいてきたのである。真っ赤な太陽と若者の歓声でわきかえる海水浴場、青い海原と潮風が吹き抜けるマリーナ、海の底で奔放に舞う色とりどりの小魚を見つめるダイバー、そのような華やかな場所に年老いていく海の男達(もちろん女性達も含んで)が憩う空間はあるのだろうか。
 このような疑問を抱きながら、表題としてヘミングウェーの向こうを張って「老人と海」としてみた。これを契機に老人と海について真剣に考えてもらえれば幸いである。

小子・高齢化社会とレクリェーション

 わが国の高齢化社会が始まった時期を、いつごろとするかについては必らずしも一致した見解があるわけではない。しかし総人口に占める高齢(65才以上)人口の割合が70%台になった、1970年ごろを始まりとするのが一般的である。そしてその後の高齢人口割合の推移をみていくと、80年に9.1%、90年に、12.1%、95年に14.6%となっている。
 厚生省の社会保障・人口問題研究所の将来人口推計によると、2000年に17.2%、2010年に22.0%、2020年に26.9%、2030年には、28.0%と急速に高まっていくとされている。今後の日本の高齢化社会は出生率の低下傾向が続くことによって、新たに小子・高齢化社会という言葉が登場するようになってきている。ほんとうは小子化の方が深刻な問題であると思われるが、その解決方法は個人に委ねられており他人が干渉すべき問題ではない。それに対し高齢化問題は社会問題として比較的対処しやすい課題である。

 

 

 

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