入社してから定年退職するまで、1度もYM保険を扱ったことがないという社員が大半であるとすれば、今後も扱うかどうかわからないYM保険の勉強をしておけというのも無理な相談なのかも知れない。
また、YM保険PB保険ともにマーケットが小さく蓄積される保険料が少ないのに、いったん事故が発生すると保険金がかなり高額になる傾向がある(損害率が安定しない)ことも、保険会社が及び腰になっている原因の1つであろう。
プレジャーボートが市民権を得るために
プレジャーボートが、海の先達である海運や漁業と肩を並べてその存在が広く一般に認知されるためには、まず保険が普及することが第一歩であることは、前に述べたところであるが、残く,心なことに現状は、ユーザーは不満があるから保険を付けない、保険が普及しないか保険会社も腰を入れて取り組まないという悪循環に陥っている。
このことは、ユーザー・保険会社双方にとって不幸なことであるが、特にプレジャーボート側にとっては、このままではいつまでも市民権が得られないことを意味してる。
いま損害保険各社は、ビッグバンに勝ち残るために血のにじむような効率化を迫られており、収益性の低い物件は切り捨てて行く反面、規制が外されることにより新しい仕組みを作っていくチャンスを狙ってもいる。保険が普及しない悪循環を断ち切るには、保険会社側の努力もさることながら、プレジャーボート側(オーナー・製造業者・ディーラー等)も真剣に知恵を絞るときが来ているのではないか。
そのための鍵は「賠償責任保険は、オーナーの最低限の義務である」ことを、いかにしてすべてのオーナーに徹底させ得るかあるいは制度化させることができるかという点にあると考える。
現在マリーナ単位でみれば、主として漁業者とのトラブルを緩和するため、賠償責任保険の義務化はかなり進んできたと推定され、このことは大変喜ばしいことであると思う。問題は、数の上では過半数を占めているマリーナに所属しないオーナーに、どうやって賠償責任保険を広めていくかという点にある。この層のオーナーも、保険についての関心は持っているけれど自ら進んで調べるのもおっくうと考えている人がほとんどなので、手軽に保険に加入できる仕組みがぜひともほしいものである。
自動車における“自賠責保険"と同じように、プレジャーボートにも“船賠責保険”制度を作ることが望まれるが、ディレギュレーション化が叫ばれているときに、時代に逆行するような強制保険の導入は現実問題として難かしいかも知れない。
組織化されていないこれらのオーナーと唯一接点を持っているのが日本小型船舶検査機構(JCI)なので、例えばJCIの検査を受検する際に賠償責任保険の証券の写しを添付すれば何等かのメリットが得られるというような制度を導入し、将来の〃船賠責保険〃制度の布石とするのも、案だと思考する。もちろんJCIは、法律に基づき設立された特殊法人なので、法律に定められていない業務は行えないし、やるにしてもさまざまな問題があるかもしれないが、一つのアイディアとして提言させていただくこととする。
賠償責任保険が広く普及してくれば、保険料の。パイが拡大することにより保険成績の安定も得られるようになるであろううから、保険会社としても船体保険も含めてよりきめ細かい対応が可能になり、ユーザーにとって魅力のある保険商品の開発も実現可能となるであろう。
海の先輩達は、不幸にして他者を巻き込むような事故を引き起こしたときは、それぞれの保険会社に問題解決をゆだね、海の知識とノーハウを蓄積している保険会社同志の話し合いにより解決を図るルールを確立させている。
プレジャーボートのオーナーも、同じようなルールを確立させることができたとき、はじめて海の先達から仲間として認知されるのではないかと考えるがいかがであろうか。