ここで、(2)の見る目標とその背景の明るさの対比についての海上実験によると、水平線が見分けられなくなり、いわゆる夜景となるのは薄明時間の2分の1ごろで、このころまではまだ幾分かは明るさが残っているということである。
具体例をあげると、前記の東京の場合の薄明時間は85分であるから、その2分の1、つまり日出前の42.5分あるいは日没後の42.5分の間、仮に東京の日没時間を午後6時とすると、午後6時から午後6時42分ごろまでが船影もはっきりしない、船灯もよく見えない薄明時の見張りの盲点、つまり危険時間帯ということになる。
4 夜間の見張りの盲点
明るいところがら急に暗いところに入ると一瞬ものが見えなくなるが、目は徐々に暗闇になれて約20〜30分くらいで見えるようになる。この状態を暗順応という。夜間、船舶を操縦するときには操縦室付近の照明用灯火は必要最小限にとどめ、暗順応状態にある操縦者の目に照明の光が当たらないように注意しなければならない。暗順応状態の目に光を当てると暗順応がくずれ、ふたたび暗順応状態に戻すためには相当の時間を要し、その間は見張りの不十分な状態が続くからである。
夜間航海中の操縦者は、決して光に目をさらしてはいけない。
5 サングラス使用上の盲点
もともと日本人の目はメラニン色素が多く、瞳孔のまわりの虹彩も茶色をしたいわゆる黒目なので眼球内に余分な光が入らないが、白人の場合にはこの色素が少ないため青い目をしており、そのために眼球内に余分な光が入り込み、サングラスをかけないとまぶしくて生活できないのである。ところが日本人の場合は初めからサングラスを持って生まれたようなものであるから、特別な場合を除いてはサングラスをかける必要はない。ものをはっきり見るためには明るさが必要でサングラスを使ってわざわざ見えにくくするのは愚の骨頂である。曇った日にサングラスをかけて見張りするのがその例で、サングラスの持つファッション性と実用性を混同してはいけない。
だから、サングラスの使用はTPO(T=Time・時 P=Place・所、O=Occasion・場合)を考えないと、かえってマイナスになることがある。
6 双眼鏡使用上の盲点
双眼鏡の性能は接眼レンズ側の器面に刻印され、一般に「倍率×対物レンズ径(ミリメートル)」および「視野(度)」で表示される。
船舶では「7×50」(倍率7、対物レンズの直径50ミリメートル)の双眼鏡が使用されているが、この性能の双眼鏡は夜間用にも適しているので極力使用すべきである。そのときには、昼間に使用したと同じ修正状態(同一調整)を必要とするので、他の人との共用は極力避けなければならない。接眼レンズの調整部をセロテープで固定するとよい。
あとがき
海洋レジャー船を中心に見張りの盲点について略述した。このほかにもサングリッター(太陽光による海面のギラギラ現象)や居眠り等、まだまだ問題点は多い。
しかしながら、船舶を運航するうえで自分の目で確かめて処置をするという見張りの重要性は、大型船であれ小型船であれプレジャーボートであれ何ら変るところはない。
「何たって見張りだ」
この言葉は、海の上では見張りさえしっかりしていれば事故は起きない。見張りがすべてであるという昔からの言い伝えである。
これを合い言葉に、さらなる安全運航に努めてほしい。

何たって見張りだ(平成7年度全国海難防止強調運動用応募ポスター、松岡英男さんの作品)