ジェットフォイルが翼走中は速力も速く操縦性も良いので一般船舶の避航は容易であるが、船体が浮揚しているために障害物・浮遊物などとの衝突・吸引が大事故の誘因になることから、操縦者の注意はもっぱら進路前面に集中せざるを得ない。
そのために注視点の広がりも前方の狭い範囲になると思われ、港内を艇走中は一般船舶並みの速力となり、障害物・浮遊物などに対しても翼走中のような格段の注意を払わなくてすむことから、注視点も左右への広がりが大きくなるものと思われる。
以上のことから、モーターボートや水上オートバイ、航走中の遊漁船等の操縦者たちは、はた目以上に高速感をもっており、それに伴って注視点の広がりも狭くなっていると思われるので十分注意する必要があろう。
その対策としては、モーターボート・遊漁船等については見張りを増員するなり減速するなりして安全運航に徹しなければならない。また、水上オートバイについてはスピードを落とすと不安定になり、かえって危険となるので安全な場所での航走を心がけ、かつ、見張りを十分にして安全を確保しなければならない。
図2 ジェットフォイル操縦者の平均注視位置

3 薄明時の見張りの盲点
日出前や日没後の空が明るい状態のときを薄明という。天文学上は、太陽の上縁が水平線に接する瞬時(日出または日没という)と太陽の中心高度が水平線下18度(マイナス18度)になる瞬時との間をいい、この時間を薄明時間と呼ぶ(図3)。日出前の薄明を払暁、日没後の薄明を黄昏または薄暮という。また肉眼で一等星が見え(日没後)、または消え(日出前)始めるのは太陽中心高度がマイナス六度の時で、日出・日没時とこの間を常用薄明という。
薄明時間は場所によって変化する。例えば、地域ごとの最も短い薄明時間を計算すると赤道上では68分、東京(北緯35.7度)では85分、アンカレジ(北緯61.2度)では142分である。薄明時間の長さが変わると、当然のことながら明るさの変化にも緩・急が生じ緯度が高いとゆっくりと暗くなり、緯度が低いと暗くなるのが早いというわけだ。
一般に、ものをはっきり見るためには
(1)明るさ
(2)対比(目標と背景の明るさの差)
(3)視角(目標の大きさ)
(4)時間(動き)
の4条件が必要で、このうち物体の認識にはとくに(1)の明るさと(2)の対比が重要な役割を占めているといわれる。もちろん、視力は正常である。
図3 天文学上の薄明
