それでは、視力の劣る者がめがねを使用しないで航海灯を見るとどうなるか、視力別の航海灯の見え方についての実船実験がある。
「裸眼視力別の航海灯の視認限界距離」の表1がそれで、結果は一目りょう然である。例えば、裸眼視力0.3は赤灯2.45カイリ(法定距離3カイリ以上)、緑灯2.3カイリ(同3カイリ以上)、マスト灯2.5カイリ(同6カイリ以上)が船灯を視認できる限界で、法定視認距離を相当下回った結果となっている。
一方、漁船・遊漁船・水上オートバイ等では波やしぶきを浴びることが多く、またそのような条件のなかでは、めがねは邪魔になることからめがねをかけないで船舶を運航する人が増えている。
また、裸眼視力の劣る者の海技従事者免許証には、自動車運転免許証のようなめがねの装用についての記入がないことから、海技従事者のなかには、めがねをかけなくても船を操縦してよいのだと誤解している人が案外多い。
これらは大変な間違いで、視力の劣る者は船舶運航のときには必ずめがねを使用しなければならないのである。
自分自身の問題として厳粛に受けとめるべきであろう。
表1 裸眼視力別の航海灯の視認限界距離

2 高速船を操縦するときの盲点
陸上における二輪車(オートバイ)と四輪車(自動車)の運転者の注視点の広がりについて、図1のような昼間の実験結果がある。図1の上下方向の小さなだ円はオートバイ、左右方向の大きなだ円は自動車の、それぞれの運転者の注視点の広がりを示している。
オートバイ運転者の注視点の広がりが左右に狭く上下に広いのは、オートバイは二輪であり運転性能は抜群であるが安定性に欠ける面があるところがら、運転者は路面上の障害物に対する注意の払い方が格別であり、そのために注視点はもっぱら進路前面の狭い範囲に集中するからであろうと考えられている。
海上における超高速船ジェットフォイル(ウォータージェットにより、1分間約180トンの海水を船尾からジェット流として高圧噴射し、約45ノット=83??の超高速で船体を海面から完全に浮上させて航走する)の操縦者の注視点の広がりについては図2のような昼間の実験結果がある。図2から翼走中は広い水域でも狭い水域でも操縦者の注視点の広がりは狭く、低速力で艇走中のときは注視点の広がりは左右に広くなる。
図1 二輪車・四輪車の運転者の注視位置の広がり比較
