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特集 何たって見張りだ
−海洋レジャー船を中心に−

元東京商船大学教授 橋本 進


橋本 進氏

 全海難の原因の2割は見張り不十分だという。とくに遊漁船と水上オートバイでは3割が見張り不十分が原因だ。見張りの盲点は何か……視力の劣る者の盲点、高速船操縦時の盲点、薄明時の盲点、夜間の盲点、サングラス使用時の盲点、双眼鏡使用時の盲点の6つの盲点を知っておけば航海の安全は向上するだろう。何たって見張りだ。

 見張りと海難

 平成9年版・海上保安白書によれば、プレジャーボート等の海難発生原因には見張り不十分、機関取扱不良、操船不適切、気象・海象不注意等の人為的要因に起因するものが78%(プレジャーボート等以外69%)を占めている。その中でも、見張り不十分に起因する海難は全海難原因の20.0%もあり、とくに遊漁船、水上オートバイおよびモーターボートにきわだって多く、それぞれの海難の32.7%、32.4%および197点の高比率を示している。
 海上における船舶の衝突を予防し船舶交通の安全を図るために、船舶の順守すべき航法、船舶の表示すべき灯火および形象物、船舶の行うべき信号に関し必要な事項を定めたのが海上衝突予防法(昭和52年6月1日法律第62号)である。その第5条に「見張り」の項を設け『すべての船舶は、その置かれている状況および衝突のおそれを十分に判断することができるように、視覚および聴覚により、また、その時の状況に適したすべての利用可能な手段により、常に適切な見張りを行っていなければならない』と定めている。  ところで、人間が感覚器官によって外界から得る情報のうち、視覚によるものは8割以上であろうといわれている。したがって、見張りさえしっかりすれば、海難事故は相当数減少させることができる道理である。

 見張りの盲点

 航行中の船舶操縦者の作業は、ほとんどの場合見張りと操船である。
 人間は自分の目で見て判断し、処置を考え、それを即座に実行するというすばらしい機能を備えている。だから自分の目でとらえた情報は正確でなければならない。
 しかし、残念なことには目には個人差があり、また、環境によっても見え方はいろいろと変化するから、意外なところに見張りの盲点があるわけだ。

1 視力の劣る者の盲点

 視力とは「2点を見分けることができる目の能力」である。明るい場所で5メートルの距離をおいて視角1分(1度の60分の1)を見分けることのできる能力を持つ目を視力1.0としたもので、もし5メートルの距離で見分けられなかったが2.5メートルの距離では見分けられたとすると、この目の視力は0.5であるとするものである。また、めがねとは矯正めがねのことで近視、遠視、乱視用のめがねのことをいい、老視用のめがね(老眼鏡)は矯正めがねとはいわない。
 さて、船舶職員法施行規則に定める身体検査標準表は、裸眼視力と矯正視力についての標準を定めたものであるが、一般に視力といえば矯正視力を含んだものをいうので、視力の標準は矯正めがねを使用することを前提としたものであることを認識せねばならない。

 

 

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