
複数の船舶との衝突危険を適切に評価するための1つの方法は、避航操船の自由度に置き換えることである。操船者は変針と変速によって衝突の危険回避に努めるが、安全な避航手段が減少するにしたがって困難さは増加するものと考えられる。
図7 避航操船手段と衝突の危険

そこで、現在の状況で変針・変速する場合、他船との衝突危険がどの程度あるのかを1隻ごとに計算してみる。図7には、前述した(b)に相当する出会いを想定し、左右変針および増減速を組み合わせた操船手段上に、北航するA船からみた衝突の危険度を描いた。現在の針路では反航船舶と衝突する危険があり、時間的な余裕も考慮すれば増速と減速には衝突危険度に違いが生じる。また右への変針も、第三船の存在により阻害される様子をイメージとして表現している。
操船者が取り得る手段に対して、他船との衝突危険や乗り上げの危険などを評価し、最も危険な値をその操船手段が持つリスクとして並べていけば、自船周囲の状況を多少なりとも総合的に測れそうである。
このような考え方に立つ評価指標を、例えば「避航操船空間閉塞度」と名付けているが、その妥当性を確かめるための操船シミュレータ実験や、アンケート調査の結果を図8に例示した。詳細は割愛するが、いずれの図も○印が斜めに引いた直線上に整然と並べば、操船者の方々が抱く困難感と評価値が合致することを意味している。
図8 操船者の意識と評価指標値の比較・検証例
 
左図は避航操船空間閉塞度と操船者の回答値を比較したものであるが、右図は衝突危険の観点でけではなく、前述したとおり避航操船の操作量も加味したものであるから、適合状況も向上している。
勿論、操船者には個人差もありすべてが一線に並ぶことは望めないが、昨今の多くの評価指標は、客観値と主観値の対応付に多大の努力を傾注した成果として提唱されており、二者択一的な相対評価だけではなく限界を明らかにするための絶対評価も目指している。
各種調査研究報告書

おわりに
船舶交通の安全性評価についてはおおむね以上のような現状にあると考えている。紙面の都合もあっていささか手前味噌の事例引用に終始したきらいもあるが、実態調査が開始された初期のころからすれば、操船者の感覚に近い評価方法が検討され、幾多の有効な測り方が提唱されるに至っている。
しかしながら、船舶交通の評価は、ダイナミックに変化するパターン認識の問題でもあり、この分野を苦手とする計算機の中で、平均的な操船者を作り上げるがごとき作業には課題も多い。唯一の利点は、疲れず、ミスを起こさないことであろうか。
船舶交通の評価においては、経済性と安全性が二律背反的にみられがちである。しかし、ひとたび事故が起これば重大な経済的損失を招くので、車の両輪と認識いただき、日々の健康管理と同様に、目先のことだけにとらわれず、先も見ながら、歩めるよう願っている。

日本海難防止協会発刊
印刷物の案内
―運輸省運輸政策局海洋室監修―
(社)日本海難防止協会では、下記の印刷物を発行しています。
対象船舶等におかれては、積極的にご活用いただき、法の順守と海洋環境の保全に努められるようお願いいたします。
記
(1)プラカードA(和文):船舶の乗客等を対象。
プラカードB(和文):船舶の乗組員を対象。
プラカードC(英文):国際航海に従事する船舶の乗組員を対象
ステッカー式(A4版) 350円/枚 塩ビ板(A4版)700円/枚
(2) 船舶発生廃棄物汚染防止規程A(和文):
廃棄物の船内処理設備等(焼却炉・ディスポーザー等)を持たない船舶を対象
A4版、約20ぺージ2,000円/冊
船舶発生廃棄物汚染防止規程B(和文):
廃棄物の船内処理設備等を持つ船舶を対象
A4版、約50ぺージ3,000円/冊
(3) 船舶発生廃棄物記録簿(和英併記):
国際航海に従事する船舶を対象 A4版、約30ぺージ2,200円/冊(価格はすべて税別)
〈問い合わせ〉日本海難防止協会海洋汚染防止研究部 電話 03-3502-3543
〈注文先〉山和マリン株式会社環境事業部 電話 03-5228-1792
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