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特集
船舶交通の安全性評価
― 狭くなった海の安全確保に向けて ―

海上保安大学校 教授 長澤明

 船舶交通の場は、陸上交通と異なり2次元的な広がりをもっており、また交通形態は「乳母車からダンプカーまで同じ権利で、同じ道を利用している」と言える。
 船舶の交通輻輳海域や大型海洋開発プロジェクトに伴う交通流変化海域における海上交通の安全を確保する諸研究がなされているが、その手法として「交通流のモデル化」「評価指標の設定」による安全性評価について解説した。

 狭くなる海

 東京湾では湾奥部、羽田沖、本牧沖の埋立てがあり、またアクアラインも開通した。伊勢湾では中部新国際空港建設計画がある。大阪湾では明石海峡大橋が開通し、さらには関西,国際空港第2期工事や神戸空港建設計画、フェニックス計画などがあり、通航船舶で輻輳する海域が狭められる事例の枚挙にはいとまがない。また、船舶自体も大型化が進められ超高速船の就航などもあるから、海は狭くなったと切り出しても大げさではないように思える。これらは活発な経済活動の表われとして好ましいことには違いないが、安全確保 の観点に立つと手放しで喜ぶ訳にはいかない。被害者意識で言うのではないが「船乗りはどこまで我慢できる」のだろうか。
 経済性と安全性をはかりにかけることは、古来からの難問であるが、多くの方々の英知と努力によって、この難問に対侍するための手法が開発され活用されてきた。
 しかしながら、元来、多種多様な要素が絡み合う複雑な船舶交通が相手であり、電算機を主軸とする各種ハードウエアの発達とソフトウエアの蓄積があいまって、昨今の評価手法は分かり難いとのご意見をいただくことが多くなった。船舶交通における安全性確保の重要性は論を待たないが、これを評価し、はかりにかける方法について理解が得られないようでは、先達や現役の努力も空しく、また、独善に陥る危険性を回避する意味も込めてその一端を紹介し、海事関係各位のご理解とご批判を期すこととしたい。

 

 

 

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