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 海上といえども陸上で生じている変化は避けられず、知られる通り、外航船では先進国船員はほとんど駆逐されてしまった。そして悪貨が良貨を駆逐する形で生じた海難の増加等が船舶の安全管理の強化をあらためて課題としているのである。

 このような意味で推進されるワンマン化はあらゆる操船の局面で可能にする必要があり、普通の海域ではワンマンで十分だが輻輳海域になるとツーマンが必要なら省力化は困難になる。つまり、最も仕事の集中するときにも、安全性を損なわないでワンマン化を可能にする必要がある。
 このためには翔陽丸では次のような仕様とした。

(1)ワンマン化に対応する操縦窄配置

 ワンマンコントロールを前提にすると、操船者が1ヶ所に座ったままで必要な情報の入手と操作を可能にする必要がある。このためには操縦室自体の配置計画から見直す必要があり、広い視界を有するコンパクトな操縦室に集約化した操船システムを効果的に配置することが必要になる。
 また、雨天時にも広い視界を確保するために窓にはワイパーの設置が基本になる。写真で翔陽丸の操縦室の模様を示すが、中央のCRTの前にたつ操船者はその場所で必要なあらゆる情報を人手できるように配置がなされている。

(2)情報の加工、集約表示と操作盤

 今までのように色々な装置の側に移動して情報を人手することができないから、必要な情報は集中して表示する必要があるし、人で多数の情報を適切に処理して必.要な意志決定ができるように、人間が使いやすいように情報を事前に加工して提供する必要がある。


統合操船システムを搭載した翔陽丸の操舵室


 特に重要になるのは、地上局からの誤差補正.信号を得て、正確な位置計測を可能にする人工衛星を用いた高精度測位システム(DGPS)による船位の情報、電子海図による航行環境のデータとレーダー情報を結合して、同一のブラウン管(CRT)」に上に集約表示することが必要になり、そのCRTが基本的な情報源として操船者の前面に置かれる。
 操船者の定位置から手の届く範囲に主要な操作部をコンパクトにまとめて配置した。使用頻度や左右前後の誤認を避けるための配慮等から配置を決めたが、従来では中心に据えられていた操舵スタンドは廃止され、馴染みやすいダイヤルに換えられた。

(3)自動胎位誘導技術

 船位が正確にわかるとその自動誘導は技術的には十分に可能であり、トラッキングパイロットとして知られている。
 そこで、電子海図、レーダー情報が重畳されたCRT上で通過すべき位置を指定して自動船位誘導することになる。自動船位誘導が可能になると、従来のオートパイロットと違い、居眠り中に浅瀬にという事態は回避されるし、直接操舵で操縦する場合のようにいつ舵を取るか、取り返すかという操作のタイミングを決める負担が無くなるから、輻輳海域などで人間の負担の同町集中を避けることができる。ワンマン化という観点からは極めて重要な負担軽減である。問題はあらかじめ、今後の危険を評価して通過すべきコースラインを決められるかという点になる。

 この(1)から(3)が欧州で広範に普及している統合操船システムの機能であり、馴れという問題はあるが効果は経験済みといえよう。

(4)避航支援システム

 衝突や座礁の防止には衝突防止装置(ARPA)が広く用いられている。現在までのARPAは本船も相手船も現在の針路と速力で航行する場合に危険を与える。

 

 

 

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