特集 内航船の近代化
翔陽丸にみる内航船の近代化と安全運航
広島大学 教授 小瀬 邦冶
海図情報、測位、船位誘導、衝突・座礁防止などの新しい技術をシステム化した統合操船システムの開発により、内航船においても近代化の普及が見込まれている。
輻輳海域においてもワンマン操船が求められる近代化船の安全の確保に心配はないのだろうか。近代化内航貨物船“翔陽丸”の企画、建造から実証試験までを担当した筆者は「船と人の一体としての科学的管理の時代の到来である一と結んでいる。
はじめに
日本財団の補助の下でシップアンドオーシャン財団の事業として企画された近代化装備を搭載した内航近代化船「翔陽丸」の実証試験が進んでいる。海図情報、測位、船位誘導、衝突・座礁防止等の新技術をシステム化した統合操船システムが本船には搭載されている。欧米と比べて遅れた感はあるが、今後、統合操船システムによる運航が急速に普及すると見込まれるすう勢にある。
翔陽丸は典型的な499型の内航貨物船であるが、東京湾でのタンカーの座礁事故によりあらためて喚起された大中型船運航の安全性向上を図る上でも、ここで実証が試みられている統合操船システムが基本的に重要となる。
この翔陽丸の企画建造から実証試験までを担当させていただいた者として、新しい運航技術の可能性とその下での今後の運航を考えてみたい。
内航船近代化の核としての統合運航システム
内航船の近代化を達成するためには荷役等の直接サービスに関連する部分の革新が最も重要であるが、これは船種ごとに要請されるサービスに応じて推進されるものである。
翔陽丸では、通常は船尾に配置されている、船としての共通的な機能部分の革新を実現した。つまり、ワンマン運航が可能な統合操船システムを搭載したブリッジ、MOレベルのモジュール型機関室、快適な居住区という、今日の内航船の安全性を保ちつつ省力運航を実現し、運航経済性を改善するとともに船員の待遇も改善するような機能の強化を本船では目指したのである。
翔陽丸で目指した革新のうち、ここでは技術的な困難度の高いブリッジの近代化を中心に述べる。ブリッジ革新においては港内、輻輳海域を含めてブリッジ内の操船のワンマン化を基本目標とした。このワンマン化は外国人船員の登用が不可能という条件下で船員費が経費の50%以上を占めるという現状では、先進国の海運にとって生き残りのための課題になっている。
先進国では人的コストの高騰が顕著だから、自動化・省力化を推進してコストを下げるとともに、質の良いサービスを提供することなしにはあらゆる産業の存続が困難になっているのである。