a 船橋当直者による情報提供の強化
たとえば、舵が重くなったとか回頭惰性の消長等操船操作の反応とその変化、船位や進路とのずれ、航行他船の動静特に自船との進路の保持関係等々を船橋当直者それぞれの分担に応じて適確にとらえ、直接・間接的にタイムリーに操船者に伝達する具体的システムと実施マニュアルの構築について再確認する必要がある。
特に、国民性の異なる乗組員混乗体制の船にあっては、具体的な情報マニュアルに基づく徹底した模擬訓練も必要と思われる。
b 航海支援システム情報の導入
大型タンカーにあっては、すでにレーダ、アルパ、ドップラーログ等の近代航海支援システムも装備されている。
これら支援システムを有効に活用し、操船計画に基づく進路の保持やそのための船位の検出や他船の動静把握等に役立たせることが強く望まれる。
さらに、今日その実用化、応用化が進められている電子海図、DGPS、AIS等の開発進展に伴う新しい機能を備える支援システムの導入により、特に中ノ瀬西側海域の航行環境に促した適確な船位制御と進路保持に寄与し得る航海支援システムの活用についても指向していくことが望ましい。
c 進路警戒船による支援体制の充実
進路警戒船は、巨大船等の航路航行にあたって船舶交通の危険を防止するため配備されるもので、海交法の定めによる。
中ノ瀬西側水域での大型タンカーの航行に際しては、特に航行他船への積極的な協力依頼の励行と、大型タンカーの進路の確保および浦賀水道航路出航後もそのまま進路警戒船の配備により航行の安全確保に努めることが望ましい。
なお、これまで述べたa、bの操船情報の処理活用とあわせて操船支援を有効にするため、水先きょう導体制の中に、例えば水先人をバックアップするアシスタントあるいはコンパニオンの導入等についても指向検討することも望まれる。
d 水域環境の整備充実
ダ号の乗揚げ事故にもみられるとおり、中ノ瀬西端の側線および北航船通航路と南航船通航路との境界の適確な把握は極めて重要である。
したがって、中ノ瀬西端を示す現灯浮標A、B、Cの大型化と光力増大および浦賀水道航路中央第6号ブイにレーダビーコンを新設するなど既設航路標識の機能向上を図ることが望ましい。
同時にまた、北航船通航路と南航船通航路の境界線についても、北航船通航路の所要幅員の見直しを含めて適切な位置に分離線を示す航行援助施設を設置することが望ましい。
また、今回のダ号が乗揚げるに至った中ノ瀬西端のAブイBブイの間に存在する浅瀬については、現通航路の法線形状からも通航路幅員の確保ひいては海域利用の面からみても撤去されることが好ましく、海域利用関係者間の協調のもと善処されることが望ましい。
流出油防除への対応
1 流出油防除体制の充実
航行船舶からの油流出事故特に大量油流出事故発生に際しての防除体制については、危機管理を含めて即応性ある具体的防除活動の方策を確立しておく必要がある。すなわち、これまで内外でのこの種海難事例等をふまえシミュレーション手法を駆使して、災害発生場所と災害の規模・内容そして災害の消長等を設定し、これに対応する組織的・系統的行動プログラムを樹立し、災害発生時の適用方策を確立しておくべきことが望まれる。
このような組織的・総合的防除体制の中で発災源である船舶側のとるべき分担と対応が位置づけられるものである。
2 船舶をとりまく初期対応体制の構築
いずれの災害でも、多くの場合災害発生時の発災源の初期対応がその後の災害の極少化や除去活動に有効な役割りを果たすことはいうまでもない。
ところでダ号と同様シングルハルタンカーにあっては乗揚げや衝突を生じた場合、船体構造や強度の上でダブルハルタンカーに比べて油流出をおこす確率は高く2次災害発生のリスクは相対的に大きいといわれている。