したがって、ダ号の油流出事故発生の教訓を受けて、シングルハル大型タンカーの中ノ瀬西側海域北航にあたっては、油流出事故発生に対する船舶をとりまく側での初期対応に必要な体制を整えておく必要がある。
この種船舶にあたっては、防除資機材の備付けについてはすでに法の定めによって実施されているものの、乗組員による防除活動・作業体制は必ずしも具体化されているとは言いえない現状にある。
油流出事故に対しては、既設の船内保安応急体制での災害の対象とはその内容も規模も著しく相違し、これによる対応は困難であるといえる。
したがって、例えば所要の流出油拡散防止活動機能を備えた高速防災船を至近の基地に配備するとか、進路警戒船に準じた隨伴形式の支援船によるなどの方策を模索の上、流出油防除活動の第1段階としての流出油拡散防止の初期対応手段を検討・設定し、前項に述べた総合防除体制にリンクし、災害の極少化をはかる方策の確立が望まれる。
3 海域利用船舶等への周知・警報
今回のダ号の油流出事故発生に際しては、海上保安庁からの一般航行船舶等へのタイムリーな情報伝達や警報、必要な指示が発せられ、流出油防除活動や船舶航行等への支障混乱は特になかったと側聞している。
災害の発生とともに、防除活動を含めてその後の状況や必要な指示等災害情報の伝達は、海域利用者の協力とともに極めて重要である。
4 乗揚げによる船体損傷への対応
前述のとおりダ号と同様シングルハルタンカーはダブルハルタンカーに比較して船体強度も劣り、構造面からも乗揚げや衝突等による船体破壊・油流出の発生の確率は相対的に高いといわれる。
ダ号の乗揚げ事故にあってその際の海底との衝突力、船底反力、そして船体強度の関係はどのようであったか。また、乗揚げ後どのようにして離州したか等々については、その力学的関係も含めて今後明らかにされることと期待するものである。この種船舶の安全運航の面からは平素のメンテナンスを含めて、必要な場にあっての航行速力の設定や緊急制御技術の上に反映させる教訓として生かすべきことを望むものである。
おわりに
東京湾への大型タンカーの受入れは、わが国の産業ひいては国の経済、国民生活に資する重要な今日的役割りを果たしていることについては十分認識されており特に異論を持つものではない。
しかし、このような認識にたっても、なおその上で今回の事故に見られる乗揚げと船体損傷に伴って発生した油流出事故という2次災害への事故拡大は、環境保全の面も含めて大きな不安を与えるものであったことも否定できない。
この種大型タンカーの受入れに対する素朴な疑問をも持たざるを得なかったのもひとつの事実である。この疑問にどう答えるべきか。
そもそも海難の防止とはその発生の防止とともに災害発生時のその極少化、災害の除去を含めた総合的対策と対応が今日の認識である以上、コマンダーシップの思想にたった総合的見地から、これを構成する分担・分野のもつ知見・経験と技術を系統的・有機的に動員・結集して実行力ある「解と答」を創出する以外にない。
たとえば、当面の中ノ瀬航路の増深や中ノ瀬西側海域の航行環境の整備と航行方式の確立等をはじめ、これら海域を含めて広域的船舶通航体系を樹立し、その中で操船上の安全対策や防災上の危機管理体制を具体的に構築していくことが望まれる。
必要な海域利用者間の協調も共生もその過程で培われるものと期待される。
[参考資料]
1 東京湾における大型タンカーの航行安全対策に関する調査研究報告書(日海防)
2 東京湾における大型タンカーの安全航法等に関する調査報告書(日本船長協会)
3 油送船ダイヤモンドグレース乗場事件裁決書(横浜地方海難審判庁)