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航行の安全確保

1 安全確保の基本姿勢
 船舶航行の安全確保の対応は、それぞれの水域条件とその交通環境等さまざまな航行条件に基づいて組み立てられるものである。
 ここではまず、冒頭に述べた前提の1つであるダ号の乗揚げの事実に着目して、その点に限定して航行の安全確保の上で取るべき基本的事項をあげると次のとおりである。

(1)航行の場、航行環境の適確な把握と対応すべき力点の抽出
(2)自船は勿論、航行他船の操船性能および操船実態の把握と、これに基づく操船許容限界の設定
(3)操船情報の適確な把握と適切な操船への導入
(4)周辺航行船舶への自船の操船計画情報の提供と周知
(5)以上の手順をふまえ、その場の状況に適合した操船設計と、着実な操船操作を含めた操船が必要である。

2 安全確保の具体的対策
 前項の観点から、ダ号の事故に鑑み、現状の中ノ瀬西側海域での大型タンカー航行時の乗揚げ防止さらに衝突防止を含めて必要な具体的安全対策として、特に次の4つの点を指摘する。

(1)適切な進路の選定とその保持
 注 ここで進路とは対地コース(経路)とし、針路(コンパスコース)と区別して用いることとする。
 大型タンカーが中ノ瀬西側海域北航船通航路を北航するときの進路の選定とその保持に当たっては、
aダ号乗揚げの教訓からもいえるとおり、中ノ瀬西端特にAブイとBブイの間に張り出した浅瀬からの浅水影響を考慮した十分な離隔距離を確保するとともに、
b南航船通航路を南航する船舶との適切な船間距離を保持する。
Cこれらの離隔距離を常時保持するにあたっては横切り船をはじめ航行他船との競合回避のための進路保持操船にあって、特に大型船の場合に増大する横偏位量を適確に制御し、縮少に努めるとともにこれに必要な進路余裕幅の確保が必要である。
 図2は、筆者が以上3つの進路保持要因についてそれぞれ算定し、中ノ瀬西側海域北航船通航路内にあって大型タンカーの選定保持すべき進路として提示したものである。
 なお、これら大型タンカーの通航進路については同海域利用船舶等に周知の上、相互の安全確保の協調の場づくりへの協力に努めることが大切である。
 たとえば、海上衝突予防法にあっては衝突のおそれがあるときの避航動作について、大角度変針操作によって相手船に対する自船の意思を明確にあらわす手法も示されているが、ダ号類似の大型タンカーにあってはわずか10度変針後復針操作した程度の操船操作でも、船の長さにも及ぶ距離の横偏位を生じ制約された通航路内での進路保持の限界を超えてしまうこともあるなど、操船性能の劣ることもあわせて理解を得ることが望ましい。

(2)操船情報の構築および航行支援の充実
大型タンカーの中ノ瀬西側海域航行にあたっては、この海域での船舶航行の実態や水域条件、そして大型タンカーの劣性な操船性能等から取るべき航行進路とその保持の必要性については(1)に述べた。その適確な進路保持にあたっては、特に次の操船情報入手方法の構築および航行支援システムの活用とこれと一体となった操船措置が必要である。


〈図2〉中ノ瀬西側北航船航路での大型タンカー選定進路

 

 

 

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