特集
ダイヤモンドグレース号の教訓
東京商船大学名誉教授 岩井 聰
あれから10カ月、東京湾の浅瀬に乗り揚げた「ダイヤモンドグレース号」の海難と油流出事故はまだ人々の記憶に新しい。
あの事故がきっかけとなって、関係省庁、関係団体、関係企業等において今後の安全対策が検討された。その結果、すでに具体的に取り組んだ対応策もあるが、まだ検討の段階にあるものもある。
今回の特集では、その道の権威が浅瀬への乗り揚げと油流出に焦点を当てて安全対策を語る。
はじめに
1997年7月2日東京湾中ノ瀬西側海域において、載貨重量26万?にも及ぶ大型タンカー「ダイヤモンドグレース号」(以下ダ号という)が乗揚げ、船体の1部を損傷し積載油の1部を流出するという誠に不幸な事故が発生した。
東京湾海域利用者はもちろん沿岸住民の方々をも含めて大きな不安と恐怖を与えるに至った。
日本海難防止協会では、さっそく「東京湾における大型タンカーの航行安全対策に関する調査研究」と題する検討会がもたれ、この種海難防止のため、とるべき安全対策について調査が行われた。(参考資料1)
筆者も検討会メンバーの1人として参加の機会が与えられたので、そこで得た知見とともに、平素船舶運航面から海難防止について強い関心と研究を進めてきた立場から本会議編集部の要望もあって、所見の一端を述べることとする。
ところで、今回のダ号の事故から学ぶべきこと、そして必要な安全対策についてはさまざまな面から検討すべきと思われるが、ここでは中ノ瀬西側海域における大型タンカーの浅瀬への乗揚げと、船体損傷にともなう油流出という2つの事実に着目、問題を限定して取るべき基本的安全対策について述べることとする。
事故発生の経緯
ダ号は、ペルシャ湾とわが国とを結ぶ原油輸送に従事する大型タンカーで、船長以下4人の日本人と20人のフィリピン人の乗組む便宜置籍船・混乗船である。(参考資料2)
1997年6月14日ダスアイランド港を出港し7月2日東京湾に入港、同日10時少し前浦賀水道航路を出て、針路警戒船1隻を先導させながら中ノ瀬西側海域北航船通航路をほぼ355度の針路を目標に北上した。
その後、航行他船などに対する針路の選定等の操船操作をとりながら北上を続けるうち、10時4分ころ中ノ瀬西側AブイとBブイ間に約200メートルほど西側に張り出した浅瀬に乗揚げ、1,000キロトンの積載油を流出した。当時のダ号の針路は355度、速力は12ノット程度であり、風力5程度の南西の風および初期の上げ潮を受ける状況にあった。
乗揚後の10時40分ころ中ノ瀬西側Bブイの西方沖合に投錨、引き続き川崎シーバースに移した後、揚荷等の措置が行われた。(参考資料2および3)