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この人と/三尾 勝

 多くの教訓を残した東京湾におけるダイヤモンドグレース号の座礁・油流出事故から9ヶ月、乗組員の組合である「全日本海員組合」はこの事故をどのように見ているのだろうか。


全日本海員組合
総合政策部部長
三尾 勝

〈プロフィル〉昭和22年生まれ、栃木県出身、
昭和44年東京商船大学卒業、
同年新栄船舶入社、
昭和60年全日本海員組合東京地方支部勤務、
関西地方支部、本部安全福祉部を経て平成8年12月から現職

―ダイヤモンドグレース号事故のコメントを。

三尾 東京湾で原油流出事故が発生し、当初の報道ではナホトカ号の折損事故による油流出量を超えるとのことで、とてつもない被害が広がることを心配しました。あってはならない海難事故が、起こってはならない海域で発生したことに大きな衝撃をうけました。ただ乗組員の無事がわかったときにはほっとしたのを覚えています。
 流出量は後で10分の1と訂正されましたが、原油流出量としては大量であることに違いありません。ナホトカ号の経験から関係機関の対応は速かったと思いますが、流出油の拡散も早くオイルフェンスの展張が遅く感じられました。
 安全問題全般に関して大きな警鐘を鳴らす事故であったと考えています。

―混乗船と事故との関係は?

三尾 ダ号の日本人船員は船長以下5人、他の21人は途上国船員でした。東京湾入湾スタンバイ時の船橋体制は船長、水先人は日本人、他は外国人の3等航海士、操舵手で一般的にはIMOなどでも問題提起されているコミュニケーションの問題もあるのではないかと思います。また、日本人はある程度先を予想しながら職務遂行しますが、外国人の職務に対する意識として先を読んで対応せずに、また言われたことはやるが言われないことはやらない考えがあるので、微妙な場面ではこの影響が現れるのではないでしょうか。

―この種事故の防止対策は。

三尾 現実的に日本経済の大動脈としてVLCCの東京湾内航行が避けられない以上、より安全な航行が可能となるよう航行海域の整備が必要です。
 まず危険な浅瀬を浚渫すべきでしょう。浚渫に時間がかかるなら浅瀬を知らせる灯浮標を設置する。灯浮標の設置に問題があるなら、付近に注意を喚起するボートを待機させる等も考えられます。いずれにしても浅瀬をそのままにしておくのでは事故再発の危険を取り除いたことにならないと思います。
 ダ号の海難審判は、パイロットの操船ミスが原因との裁決がなされましたが、船長はじめ乗組員は最大限に神経を尖らせていたにもかかわらず、今回の事故が起こってしまったのですから、単にヒューマンエラーだけでなくその背景にも及ぶ原因究明をしてもらいたかったものです。
 また現在のパイロット制度にも問題があるとの観点から、組合はパイロット協会に対して水先技能の維持向上と併せて合理的な定年制の検討について申し入れました。

―組合の海難防止の取り組みを聞かせてください。

三尾 海難事故防止には、徹底的な原因究明と改正STCW条約による船員の資格や必要な操作能力に対するポート・ステート・コントロール体制のさらなる強化、ISMコードによる船舶管理体制の徹底が必要であり、この実現をめざして取り組みます。
 また石油資源のほとんどを輸入に頼るわが国にとって、タンカーなどの海難事故と2次災害の発生は致命的であり、その防止とともに事後処理体制の強化を目指して運動を進めたいと思います。

(全日本海員組合で聞き手=村上)

 

 

 

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