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 (2) 洗浄時間
 ノズルの吊下げ位置が決定したら、次は吊下げ位置における洗浄時間の決定です。
 洗浄時間を決定する上で考慮すべき点は、次のとおりです。

イ. 前航に積載した貨物油の種類及び性質
ロ. 使用する洗浄水の温度
ハ. 前回洗浄からの経過時間
二. 艙内構造物の配置
ホ. 過去の実績

 以上を考慮の上、洗浄時間を決定しますが、このうち最も重要なものは過去の実績です。
 洗浄は、状況の許す限り長時間行うことが望ましいのですが、他の作業との関連により必要にして十分な時間を選定することが重要です。

 (3) 同時に使用するノズルの台数
 貨物艙の洗浄をする際、同時に使用できるノズルの台数は、船によって異なり、これを決定する要素としては、次のものが挙げられます。

イ. ノズルの容量
ロ. タンク・クリーニング・ポンプの容量
ハ. タンク・クリーニング・ヒーターの容量
二. ストリッピングポンプの容量
ホ. 爆発事故防止上の安全対策

現在の一般的なタンカーでは、一個の貨物艙は、一行程で洗浄できるだけのポンプ、ヒーター等の容量が決められているのが普通です。
 静電気による洗浄中の貨物艙の爆発説がクローズアップされている今日、国際海運会議所(ICS-INTERNAT10NAL CHAMBER OF SHPPING)では、事故防止の観点より、同一タンク(区画)内で同時に使用することができるノズルの台数制限を含む一連の安全対策を推奨しています。
 貨物艙の洗浄中の汚水のストリッピングの良否は、洗浄効果の点で最も重要な要素です。従ってノズル台数の決定にあたっては、ストリッピングシステムの容量と汚水発生量との見合いを十分考慮する必要があります。ストリッピングシステムの容量は汚水発生量の1.25倍以上あるのが望ましいでしょう。

 (4) 洗浄水の温度
 一般に洗浄水の温度が高いほど洗浄効果は良いといえます。しかしながら油種によっては、高温水による洗浄の結果揮発分が蒸発し、スロップタンク内に回収した油分が凝固することもありますので、油の種類によって洗浄水の温度を適当に選ぶことが重要です。高温水で洗浄を行う場合は、貨物艙内のガスの濃度が、爆発限界外にあることを確認することも必要です。
 また、タンク内コーティング・パッキン類などへの影響を避けるため、洗浄水の温度を60℃以下とする方がよいでしょう。

 (5) 汚水の発生量と処置
 ノズルの種類と使用台数、洗浄水圧力及び洗浄時間によって、発生する全汚水量を推定することが可能です。
 油水分離のために使用するタンクにより、汚水の扱いは異なってきます。専用タンクを持たないタンカー及び専用タンクを一個しか持たないタンカーでは、洗浄作業と並行してタンクからの水分の排出は行わない方がよいでしょう。
 分離した水分を艙外へ排出する場合の汚水の静置時間は、気象・海象の状況等によっても変わり、状況のよい場合は12時間以上の静置を要しないこともありますが、ほとんどの場合、好結果を得るためには24時間以上の静置が必要であり、タンクの容量、タンクの構造等を検討の上、汚水発生量の面からも洗浄作業計画を検討しておかなければなりません。

 (6) タンク洗浄剤
 貨物艙の洗浄に「タンク洗浄剤」を使用することは、洗浄効果を高める上で、その価値は十分認められています。しかし、一般に洗浄後の油水分離作業が困難になること及び洗浄中に貨物艙内の静電気量が増大することもあり、使用しない方がよいでしょう。

〈洗浄後の貨物艙の点検〉

 貨物艙の洗浄が終了し、当該艙内がガスフリーとなったならば、バラストを漲水する前に洗浄度の点検を行わなければなりません。同時に艙内構造物の損傷の有無も点検するのが普通です。
 洗浄が効果的に行われた場合は、艙内構造物表面にはほどんど油分が残りません。しかし、洗浄水が当たらなかった死角あるいは、洗浄中に汚水が溜まった箇所にはスラッジが残ります。高温水で洗浄を行った場合、艙内に残留している油分の流動点は、60℃前後が普通であり、海水を漲水した場合、表面にほとんど油は浮上しません。艙内構造物表面にベットりした油分が多量に残っている場合は、洗浄の失敗であり、高温水で再度洗浄をやり直すことが望まれます。
 クリーンバラストを漲水する場合、一般的に洗浄後、艙内に残留するスラッジは処理しません。冷海水で洗浄を行った場合、残留油分の流動点が比較的低く、バラストを漲水した場合、表面に油分が浮上することが多いので注意を要します。いずれにせよ、貨物艙内に漲水したバラストの表面には、多少の油分が認められるのが普通ですが、これらの油分はバラストの排出に伴い再度構造物に付着し、艙内に残留します。
 漲水したバラストの表面に着色を認める程に多量の油が浮上しているのは、洗浄が不十分な証拠であり、この様な場合は、再度洗浄を行います。

 

 

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