〈計画立案上考慮すべき事項〉
効果的な洗浄を行うためには、作業全般にわたり綿密な計画を立案することが必要です。
(1) 洗浄後搭載するバラストの量の決定(計画喫水)と洗浄すべき貨物艙の選定
航海に必要なバラストの量は、船型、就航海域、就航する季節等によって一様ではありません。堪航性の面からのみいえば、バラスト量はできるだけ多いことが望ましいのですが、経済面との関連により必要量が決定されます。洗浄すべき貨物艙は、航海中の喫水とトリムをどのように計画するか、船体強度に問題はないのかなどの要素により選定されますが、現在の大型タンカーにあっては、バラスト搭載に使用するタンクは、造船所が船体強度をあらかじめ計算し指定するのが普通です。貨物艙の洗浄はバラスト搭載のためのほかに、保守整備の必要上も一般には行われています。
なお、原則として分離バラストタンクを設置したタンカーの貨物艙、又は150GT以上のタンカー及び4.000GT以上のタンカー以外の船舶の燃料油タンクには、水バラストを積載してはならないことになっております。
また、分離バラストタンクの代替措置として、クリーンバラストタンク又は原油洗浄設備を設置しているタンカーについては、原油洗浄を実施していないタンクヘのバラストの積込みは禁止されています。
(2) 洗浄作業を行う時期、海域
洗浄効果に及ぼす要素として、船体の動揺が挙げられます。洗浄汚水、ダーティバラスト等の油性混合物の油水分離作業に十分な時間的余裕も必要であり、他の関連作業に支障を来さない時間、海域を選ぶ必要があります。
(3) 洗浄要領
現在、一般的な洗浄方法は、ポータブルノズルを使用する方法です。
ノズルは、種類により有効範囲及び1サイクルに要する時間が決まっており、貨物艙の内部構造を検討の上、ノズルの吊下げ位置、洗浄時間を決定しなければなりません。
一般に、洗浄は高温・高圧水が効果的ですが、爆発事故防止の面でも十分な安全対策を立てることが必要です。
貨物艙の内部構造は複雑であり、ノズルの吊下げ位置の決定にあたっては、死角が生じないよう細かな吊下げ操作が必要です。固定式ノズルを使用する場合、ノズルの死角には特に注意が必要で、場合によっては、ポータブルノズルにより補助する方法も効果的です。
同一艙内で同時に使用するノズルの数は、ストリッピングポンプの能力により決定できますが爆発事故防止の面からも考慮する必要があります。
(4) 洗浄汚水の扱い
洗浄汚水はスロップタンクに集め、油水分離する必要があります。このため、使用するスロップタンクと発生する汚水の予想量などについて前もって計画を立て、油水分離作業が順調に行えるように考慮することが必要です。(専用スロップタンクを有しない船にあっては、タンクの選定が重要な要素となる。)
(5) 作業時の注意
油濁事故及びその他の事故を防止するため、注意事項を挙げ、作業関係者全員に周知させることが必要です。
〈タンク洗浄作業〉
原油洗浄の概要については、別途技術基準が定められております。
ここでは海水により貨物艙を効果的に洗浄するため考慮すべき事項等について説明します。
(1) ノズルの吊下げ位置
タンカーのタンク・クリーニングホールの位置は、新造の段階で決定されているため、作業に応じ位置を選定することは不可能です。本船上でできることは、このタンク・クリーニングホールよりノズルを吊下げた場合、最も効果的なノズルの高さを決定することです。洗浄効果の面からは、全タンク内構造物表面にノズルからの射水が直接当たるのが理想です。しかしながら、一般的にいってこれは不可能に近く、実際には、反射水も利用し洗浄が行われています。実際に吊下げ位置を決定するには、タンク内構造物とノズルの有効射水距離により、最も死角の少ない位置を求めるのがよいようです。
ポータブルノズルの有効射水距離の例は、次のとおりです。