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(ロ)訪船実施に当たり、運航管理者から本船に対し文書による指導(注意事項の通知)がなされており、乗組員はその趣旨に従って船務に就いていた。訪船調査の有無に関わらず常々このような細かい指導により水準の高い運航体制の維持を望む。

(ハ)当航路運航開始間もない頃に運航事故が発生した経験に基づき、安全運航の徹底とともに事故発生時の対応、他社との相互協力体制の確立にも努力が払われている。始業時の事務所における社員ミーティングには従業員が覇気のある態度で臨んでおり、海陸の意思疎通にも良い結果をもたらしている。

(ニ)海図下欄に最近の改補項が記載されてない。改補の記録を明確にしておくべきであ る。

(ホ)船内の整備、整頓は行き届いており、旅客の安全に障害となる物品や危険物はない。

(へ)航海日誌の船長・一等航海士の署名欄の署名が脱落している部分が多い。責任者としての署名をするならば、見落としのないように注意が必要である。

(ト)その他
推進器にロープが絡まり熊本出港後引き返す事態が発生した。これに関して気付いた点を付記する。
熊本港出港後増速の際、船機長とも異常な振動に気付き、両者ともに冷静に原因を調査し直ちに対応策がとられた。?島原港への航海を継続するか、熊本港へUターンするかの決定において本船の意向が重視されたことは運航管理規程にも準拠しており安全第一の適切な処置であった。?慌ただしい状況下において、船長が早い時期に船内乗客への状況説明を行ったことは適切な対応である。?熊本帰着着岸時には、錨の使用をも考慮すべきである。(異常事態で帰港したのである故、着岸操船時に予期せぬ事態が発生しても投錨できるよう錨の用意を確認しておくべきである。)?港外においてUターンした時点で、Uターン位置および熊本着予定を本社責任者に通知すべきである。(本社と打ち合わせながら運航しているが、異常事態の場合は本社が逐一現状を正確に把握できるようにする必要がある。「○○時○○分、○○ブイから○○○度○○マイル、熊本港向け引き返す。熊本着予定は○○時○○分。本船機器の状況、乗客の状況、気象・海象、陸側に求める手配、参考事項等」をまとめて連絡すると良い。……異常事態における連絡項目の雛形を船橋の電話横に備えている船社もある。)?異常事態が発生した場合は、船長が時刻、位置、状況、本船の処置、運航管理者等との確認事項を記録する担当者を指定すると良い。(異常事態発生の場合には、陸側と本船との状況把握に誤解を生じないことが重要である。三等航海士にBell Book等に記録させる方策もある。)

・熊本港は緑川・白川の間に位置し、干満差が大きく漂流物が港内に漂着する可能性があり、港付近のフェリー進路至近においては浚渫作業が行われている。操縦の自由を阻害するような事態は大きな事故を起こしかねない。切断したロープが推進器に巻き込まれるということは、付近の船舶がロープ切断時にそれを放棄した可能性がある。公共性の高いフェリーの欠航は極力避けるよう努力するとともに、同業船社間で情報交換を行い、廃棄物、漂流物が出入港船の安全を阻害しないよう地域社会のモラルの向上が望まれる。

・本船の船型はSSTH(Super Slender Twin Hull)=超流船双胴船型と呼ばれ、曳波が小さいので漁船や定置網への影響が少ないといわれている。船体はアルミ合金製、車両甲板にピラーなし、ドイツベンツ社製のディーゼルエンジン2基を装備、最大速力約33ノットの能力を持つ。(船内掲示物抜粋)

・第2便(熊本発島原行き)の異常事態概況=本船は船首喫水1.80m船尾喫水7.75mをもって、平成10年9月1日0925時定期時刻のとおり熊本港を出港し島原港に航行を開始した。0932船内巡視を終了。0935周囲の安全を確認し、増速を開始したところ船体に不規則な振動を関知した。左舷側のプロペラの回転数が異常であり、増速すると振動が大きくなることが明らかとなった。直ちに、機関士を機側に派遣点検の結果、エンジン本体には異常が無くプロペラに振動の原因があることが判明した。0938船客に対してエンジンのテスト中である旨放送。0941事務所責任者と打合せ。島原向け航行続行か、熊本へ引き返すかは船長の判断に一任された。この結果、船長は熊本に引き返すことを決断。熊本帰着時に潜水夫の手配を依頼。また、旅客・車両については他社のフェリー(熊本発1025)に振り代える手配を依頼した。他船による振替輸送については船内アナウンスで周知したが、乗客は冷静に対応した。1025熊本港着岸。直ちに旅客、車両を卸し潜水夫の到着を待った。潜水夫による調査の結果、左舷側推進器に他社のものと思われるロープが絡んでいることが判明。これを撤去、推進器、船体、スターンシール等には異常がないことを確認。第4便(熊本発1305)から定期運航に復帰した。細心の注意をもって運航を続けた結果、第4便(訪船調査実施便)熊本〜島原間の往復航海においては船体機関に異常は認められず、引き続き定期運航を実施した。

 

 

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