日本財団 図書館


モーツァルト(1756〜1791)

フルート協奏曲第2番ニ長調K314

この曲は1778年、第1番とほぼ同時に作曲された。モーツァルトはマンハイムでオランダ人のド・ジャンからフルートのための協奏曲を3曲依頼されたが、そのうち1曲しか作曲しなかったと父親宛ての手紙で書いている。2番に当たるこの曲は、オーボエ協奏曲と同じ譜であった。オーケストラパートもほぼ同質で、フルート演奏法を考慮に入れた音階的な変奏がみられ、現在ではフルート協奏曲の方が有名である。他に「フルートとハープのための協奏曲」もあり、どちらも晴れやかで輝かしいばかりに美しい生命感が躍動しているのが感じられる。当時、22歳のモーツァルトは、アロイジア・ウェーバーという女性に熱烈な恋をしていたためでもあったか。

作曲された時代は、ヨーロッパでの植民地政策に対してアメリカが独立戦争を始め、文人ではゲーテが活躍し始めている。1770年にマリー・アントワネットがルイ王に嫁ぎ、それから19年後にフランス革命が起こった。知的にも文化的にもヨーロッパはひとつの世界としてさまざまな政治運動革命の余震のあった時代である。

第1楽章 華やかな序奏を経てフルートが主題を奏し、幾重にも装飾されるモーツァルト独特の変奏の後にソロで高唱されて終わる。

第2楽章 叙情的でゆったりとした楽章

第3楽章 オーボエとホルンに導かれてのフルートが主題を示し、曲中あざやかな主題と変奏が織りなし終曲に再び第1主題。この主題はかなり有名で、作曲者自身もオペラ「後宮からの誘拐」K384でアリアとして使用されている。

 

チャイコフスキー(1840〜1893)

交響曲第4番へ短調op36

作曲された時代は音楽的にも19世紀文化が頂点に達し、ワーグナーはバイエルン王国のバイトロイト祝祭劇場で「指環」が初演された。絵画では印象派、モネ、ルノアール等の作品が注目され、'75年にはパリのオペラ座が完成している。詩人ランボーはパリに迎えられ、ヴェルディのオペラ「アイーダ」はスエズ運河開通を記念して初演された。('71年)西欧派といわれたチャイコフスキーはかの有名な「白鳥の湖」が上演された。('77年)しかしこの公演は不評だったとか。政治的にはロシアはトルコと戦い、国内では農民運動が高まりナロードニキの学生たちは厳しい弾圧下にも屈せず、民衆運動が高まる。又、画家レーピンも活躍している。世界史的にみても大きな変革の波の渦中にあった。

チャイコフスキーはそういう時代のなかでこの4番の交響曲を作曲した。この作品は彼の交響曲中最も変化の多い、かつ情熱的な曲といわれ、以後の5番、6番の「悲愴」にも優るとも劣らない魅力がある。

当時36才のチャイコフスキーは富裕な未亡人メック夫人と文通のみの交際があり、彼女は彼に年額6千ルーブルの年金を送り続けている。彼は夫人宛てに「私はこの曲を貴女に捧げます。貴女はそのなかに最も親しい思いや感じが反映されていることを見い出すに相違ないでしょう。」と綴っている。しかし、ここにもう一人の女性が現れる。が、彼女アントニーナ・ミリューコヴァとの恋は短く、5月に婚約し7月に結婚したものの、結婚後も彼女のわがままな無理解に振り回されて、9月にはモスクワ川に入水自殺を図った末入院するに至っている。この間第1楽章のみが作曲された。もし彼が自殺を果たしていたら、この曲もそれ以後の名曲もこの世に存在しなかったろうし、チャイコフスキーの名もそれ程有名にはならなかったか。2週間生死の間をさまよい、弟が彼をスイスの病院へ移転させて全快後、イタリアのサン・レモで作曲を続けた。もちろんこの間の生活費はすべてメック夫人の年金のおかげである。この曲の扉に「私の最もよき友に」と記してあるのはまぎれもなくメック夫人の友情に対する彼の感謝のあらわれと見るべきだろう。

第1楽章 ホルンとファゴットの最強音で激しい序奏が始まり、続いて波打つような8分の9拍子のワルツ。弦で悩ましい第1主題があらわれ木管がチャイコフスキー独特の反復主題。再びティンパニーで引き締めクラリネットが甘美な第2主題を奏でる。このあたりで聴衆はロマンと迫力のある構成美に打たれるだろう。ベートーベンやブラームスにはない、まさにチャイコフスキーの運命の主題とその変奏がさざ波から大波へと発展していく。

第2楽章 オーボエの寂しい主旋律があり多様な楽器で反復される。「私たちは過去を嘆き懐かしみますが、新しい生活を始める勇気も意志もない。」と絶望をうたっている。

第3楽章 すべて弦楽器のピッチカートでせかせかと夢幻のリズムのたわむれをする。交響曲で全楽章ピッチカートで奏されるのも珍しい。中間部は管楽器がおどけた音型を奏する。

第4楽章 再び息づまるような強烈な第1主題があり、続いてロシア民謡風な調べ。乱舞する第3主題が提示され、強烈な終結部にもどる。聴衆はこの情熱的終結部で『民衆の単純素朴な幸福との共存により生きてゆかれる』と彼自らがこの曲に込めたメッセージを感じるだろう。

(西川敏之)

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION