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第2楽章は夜想曲風の優雅な音楽で、ピアノがカンタービレ(うたうような)の主題を装飾をかえては何回も弾き、静かに消えていきます。

モーツァルト風のはつらっとした典雅なロンドの終楽章ではピアノ音楽の歯切れのよい美しさを堪能してください。

 

交響曲第5番ハ短調作品67《運命》

 

ベートーヴェン

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770〜1827)は、無名のテノール歌手の息子として生まれ、父の厳しい教育の元その才能を開花させました。20代ですでに大作曲家となっていた彼に、作曲家にとって致命的ともいえる難聴の兆しが現れたのは28才の頃のことです。もはや回復が望めないと知って絶望の淵に立たされましたが、彼は不屈の精神で克服し、《英雄》の名で有名な交響曲第3番を始め第5番《運命》第6番《田園》といった大作を次々と完成させていきました。

この曲は、ベートーヴェンの最円熟期の1808年に作られた画期的な傑作に属し、純粋な古典形式に立脚しながら、自由に個性の強い魂を語り、豪胆に悲愴と闘争と情勢を盛り上げた点で、交響曲第3番の《英雄》(エロイカ)をしのぐ驚異的な作品です。第1楽章は、いきなり荒々しい異様な第1主題をもって始まります。主題とはいってもその本体をなすものは最小の4つの音に要約され、あとはこれを反復し、積み重ねていくだけで、さらにこの主動機は第2主題を構成し、ひいては全楽章を組織的に築き上げるのは、主題法としてさらに驚異的です。ベートーヴェンはあるとき弟子のシントラーに第1楽章の動機を説明するのに「運命はかく戸をたたく」と言ったという逸話がありますがこの一言によって今日まで俗に「運命交響曲」の別称をもってよばれています。つまり「運命」というタイトルは直接にベートーヴェンによって与えられた標題ではありませんが、作品の内容にさほど矛盾するものでもありません。他方パリ初演の際に、終楽章に移って、あの豪壮な第1主題が開始されるやいなやナポレオンに仕えた一老兵が「皇帝だ!皇帝万歳」と叫んだことにより、当時のパリでは「皇帝交響曲」の名を持って呼ばれていたと伝えられています。第4楽章では、これまでの黒い雲を払いのけ、輝かしい勝利の凱歌が高らかにひびきわたり、そこにはもはや運命の闘争もない英雄の勝利のみがすべてを圧倒しています。

また、この曲は第6番「田園」と並行して作曲され同時に初演されましたが、全く正反対ともいえる性格の双子のように作られたというのも、ベートーヴェンの人間像を考えるとき大変興味深いことです。

 

 

 

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