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田頭勉君を知ってもう十年以上も立つだろう。彼の中に私が見たものの内まず上げておきたいことは、一言でまとめれば思慮深さだ。それも十分な柔軟性を背景とし、率直さ積極性とを兼ね備えている。それが大変自然な良識性を整えさせるのである。その点で私は彼から新しく好ましい青年像を感じることができるのであり、そのため彼とは年齢差を気使うことなく話ができるのである。また彼はなんら力むことなく物事を正視することができる。どんな気流の中でも、別に抵抗することもなければ流されることもないという自然さがある。自己の中に規律を持ちながらも、ひろくおだやかな心がそれを包んで和んでいる。それは彼の音楽にも首尾一貫しているのである。

音楽について言えば、この項目の目的は作品の推薦ではないと思われるので差し控えるが、田頭君の音楽を通じて感じるのは、一時期の傾向に、とにかく楽譜として従来の常識から掛け離れているような譜面でなければ入賞はおぼつかない時代が長く続いたのが、ここへ来てようやく従来の佇いを持った譜面が審査に残る可能性が出て来たということである。

大きな力を持った事業が、結果的に若者達を検閲し、日和見にし、創作様式を制御してしまい、無意味な体制維持に知らず知らずに加担してしまうという事態が、どうか起らないようであってほしいと、心から願っている。

 

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<佐藤昌弘プロフィール>

1962年11月11日生まれ

1987年東京芸術大学音楽学部作曲科首席卒業

1990年東京芸術大学大学院音楽研究科修士課程作曲専攻修了

日本交響楽振興財団第12回作曲賞入選

1991年第1回芥川作曲賞最終選考演奏作品ノミネート

1992年第61回日本音楽コンクール作曲部門

(オーケストラ作品)第3位入賞

日本作曲家協議会、日本現代音楽協会各会員

作曲を松村禎三、佐藤眞の両氏に師事

 

トランスフィギュレイション―ピアノとオーケストラのための (1997)

(Transfiguration for Piano and Orchestra)

佐藤昌弘

 

曲は、3管編成オーケストラと独奏ピアノによる、単一楽章の協奏的管弦楽作品である。独奏楽器とオーケストラという形態は、私にとって今回が初の試みとなる。

この作品では、ピアノとオーケストラが終始対等に発言する。両者は、対立と融和を繰り返しながら、相互に反響し、共鳴し合い、構造的にも音色的にも渾然とした音響体を作り上げていく。

曲の音組織は、12半音を、数オクターブにわたって様々な配置で、同時に積み重ねて得られた和音が中心素材となっており、和音上部の、人工的にしつらえた高次倍音が濃密な光彩を放つ。この複合的な和声が、全曲を通じて変容(トランスフィギュレイション)し、ソノリティの色彩を多層に織り成していく。

 

 

 

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